野鳥、動物、蝶・・・上高地の生き物たち【山と溪谷2024年5月号特集より】

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『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りしています。特集から然豊かな上高地の生き物たちを解説するページをご紹介します。

文・写真=山部 茜

人間と動物は干渉し合わない隣人同士

年間約120万人が訪れる一大観光地である上高地(かみこうち)。景勝地として有名だが、豊富な湧水をたたえる亜高山帯の森林は、140種を超える野鳥をはじめとした多くの生き物のすみかでもある。人間と動物のここでの関係はやや特殊だ。上高地はいくつもの法律で守られ、動植物の採取ができず、遊歩道以外の場所への立ち入りも制限されている。

人間から動物への影響を最小限にとどめる努力をする一方、動物から人間へのアプローチも非常に少ない。上高地では現在、農林漁業などが行なわれておらず、ゴミなども徹底的に屋外に出さない管理をしており、動物が人間の食物に手を出す機会がほとんどない。人間と動物は干渉し合わない隣人同士なのである。

動物を間近で見た方から「警戒心がない」と驚かれることがあるのもそれゆえだろう。ただし適切な距離を維持するには、上高地を訪れる全員の協力が不可欠だ。餌付けの禁止、ゴミの持ち帰り、サルやクマなどには近づかないなどのルールを守り、多彩な生き物たちの姿を楽しんでいただきたい。

コマドリ

日本三鳴鳥のひとつで、馬のいななきのようなさえずりから駒鳥と呼ばれる。ササヤブに住むため見つけにくい鳥だが、上高地では警戒心が薄く比較的容易に見ることができ、撮影に訪れる人も多い。「一沢一駒」と言われるほど縄張りがはっきりしており、特に河童橋~明神の梓川左岸コースで観察しやすい。5〜7月ごろが観察適期。

キビタキ

4~5月ごろに上高地へやってくる渡り鳥。オス同士の縄張り争いが激しく、この時期には取っ組み合いの喧嘩を目撃することもある。6月に入り木の葉が生い茂ると姿が見えにくくなるが、リズミカルな歌声はあちこちから聞こえてくる。それほど高くない枝にいることが多いため、声と、鮮やかな黄色を目印に探すと見つけやすい。

マガモ

日本の多くの場所では冬鳥だが、上高地には一年中生息している。オスは10~5月ごろにかけてが写真のような美しい色合いで、雌雄がつがいでいるのもこの時期。夏の間は別々に行動し、オスもメスと同様の地味な茶色に変わる。子育てはメスのみが行ない、6~8月ごろ、大正池や岳沢湿原などの水辺で親子連れの姿を見られる。

ニホンザル

上高地には4群200頭以上が生息し、最も身近に見かける動物。「世界最北のサル」として知られるニホンザルの生息地のなかでも、冬に氷点下20℃にもなる上高地は特に寒い場所。初夏から夏にかけては、ササの新芽や、川の石をひっくり返して虫を食べている姿をよく見かける。

ニホンアナグマ

ずんぐりした体型で、大きさはタヌキ程度。その名のとおり巣穴を掘って生活する。鼻を使って地面を探り、ミミズや虫などを食べている。建物や遊歩道のすぐそばに出てくることもあるが、あまり目がよくないこともあってか、人間がすぐ近くにいるのに気付かないこともしばしば。逃げる姿もどことなくおっとりしている。

カラスアゲハ

裏側は黒味が強いが、表は角度によって青や緑に輝く、非常に美しい蝶。よく似たミヤマカラスアゲハとともに、6~8月ごろに見られる。それほど数が多いわけではないが、はねを広げた大きさが10cmほどと大きいため飛んでいるとよく目立つ。遊歩道沿いの湿った場所や、河原などに下りて給水している姿を見かけることが多い。

アサギマダラ

南は台湾、北は北海道まで、渡りをする蝶として有名。上高地では5~9月ごろに見られる。写真はヨツバヒヨドリの蜜を吸っている様子で、オスは特にこの花を好む。梓川沿いの明るい遊歩道によく咲くため、その辺りで見つけやすい。幼虫の時期に食べる植物に毒があり、それを体内に取り込むことで鳥などの天敵から身を守っている。

オオイチモンジ

はねを広げたとき、茶色の地に白い一文字模様が目立つことから名がついた。7~8月ごろに見られ、河童橋のすぐ近くを飛んでいることもある。幼虫の食草であるドロノキは、梓川のような氾濫の多い川沿いによく生える。高山蝶の一種で、長野県指定天然記念物。上高地でも違法採取防止のためのパトロールが行なわれている。


山部 茜

やまべ・あかね/東京都出身。河童橋畔のガイド団体ネイチャーガイドファイブセンスのディレクターで上高地常駐。著書に『ネイチャーガイドさくらの上高地フィールドノート』(信毎書籍出版センター)。

『山と溪谷』2024年5月号より転載)

プロフィール

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。

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雑誌『山と溪谷』特集より

1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。

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