上高地から徒歩2時間30分の岳沢小屋でクマがテントを襲撃。岳沢小屋のテント場は当面の間、利用禁止に

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文=山と溪谷オンライン

標高2170m、北アルプス前穂高岳直下の岳沢(だけさわ)に立つ岳沢小屋は、上高地と穂高岳を結ぶ重要な中継地点として多くの登山者に利用されている。

この岳沢小屋のテント場で、ツキノワグマと思われる野生動物による2件の被害があり、7月22日から岳沢小屋のテント場は当面の間、閉鎖となっている。この夏、岳沢経由で穂高岳方面の登山をテント泊で予定している登山者は計画時に注意が必要だ。なお、岳沢小屋は通常通り営業している。

岳沢小屋

7月22日から閉鎖中のテント場に関する最新情報は岳沢小屋のウェブサイトで確認を(写真=昆野安彦)

今回のクマの襲撃に関して環境省信越自然環境事務所の国立公園課(長野県)に取材し、被害の概要をまとめた。

【7月18日午前11時頃】
岳沢小屋のテント場にテントを張ったまま穂高岳を登ってきた登山者が、18日午前11時頃テント場に戻ったところ、テントが破れており、室内の食料が食べられていた。

この後、通報を受けた環境省は、食料の管理に気をつけること、テントを張るときは密集して張ること、などを現場に助言した。

【7月21日午後8時頃】
食事を終えた男性が1人でテント内で寝ていたところ、突然、クマと思われる動物がテントの上から覆いかぶさってきた。男性はとっさに大声を上げ、テントの中から脚を蹴り上げて反撃。しばらくして外に出てみるとクマと思われる動物の姿は見えなかった。

被害に遭った登山者はいずれもクマを直接見ていないが、21日に襲撃された男性は強い獣臭や獣の息遣いを感じたといい、そして、この襲撃以前にも岳沢小屋のテント場周辺をうろつくクマの目撃情報が複数あったことなどから、襲撃した野生動物はクマであると考えられる。

北アルプスのツキノワグマ(撮影=昆野安彦)

北アルプスのツキノワグマ(撮影=昆野安彦)

今回の事案は人身事故ではなく、テント内に残置した食料を食べ、中で人が寝ているテントを破壊する、という内容だった。環境省信越自然環境事務所では、「18日にテント内の食料を食べたことで〈テントそのものに興味を持った〉クマが21日に再びテント場に現われたのではないか。人間を襲撃する目的ではなかった」と分析する。

今回の2度に渡る被害から私たち登山者が学ぶことは多い。

環境省の担当者は「テントの中に食べ物があることを知られないことがもっとも大切です。においを外に出さないための食料の管理を徹底してください。テントの中に食べ物があるとクマに学習させないことがもっとも重要です」と話す。

テント場に荷物をデポして山頂を往復するときは、テント内に食料やゴミを残置せず、アタックザックにすべて入れて持ち歩くのが望ましい。また、クマの出没が想定される山域をテント泊で山行する場合は、食料や生ゴミの管理を厳重に行ない、前述のとおり〈においを外にぜったいに出さない〉ための処置を徹底しなければならない。

上高地の小梨平、北海道の知床や大雪山の一部の山域ではテント場にフードコンテナの設置があり、食料目当てのクマの襲撃からリスクを減らすよう対処している。しかし、そのほかの国内の山岳テント場では、食料やゴミの管理は登山者自身の責任である。

山の住人であるクマと来訪者である登山者との軋轢は避けなければならない。その鍵は登山者自身の自覚と行動にあることを、今回、北アルプスのテント場で起きた被害を前にしてあらためて確認したい。

関連リンク

岳沢小屋ウェブサイト
https://www.yarigatake.co.jp/dakesawa/

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