奥多摩西部・雲取山から八ヶ岳の東部裾野まで広がる広大な山域、奥秩父。豊かな森と渓谷を有し、季節を通じて登山者を集める人気のエリアである。標高2601mの北奥千丈岳を最高峰として2000m級の山々が連なり、百名山である金峰山、瑞牆山、甲武信ヶ岳、二百名山の和名倉山などの名山が集まっている。
日本最長の千曲川のほか、首都圏に流れ出る荒川や多摩川はこの奥秩父に端を発し、豊かな原生の森によって育まれた清らかな水の流れが下流域を潤している。また古くは林業が盛んであったため、当時をしのばせる森林軌道跡などが残されている場所もある。一方奥秩父西部には、瑞牆山や金峰山など花崗岩質の山々が連なり、原生の森だけではない一面も見せている。今回は、そんな多彩な魅力がつまった奥秩父をめぐるコースをご紹介する。
登山シーズンは春から秋にかけてだが、麓に比べて春は遅い。場所によっては5月まで雪が残る箇所もある。秋の紅葉は10月いっぱいまでが見頃で、11月になれば気温もかなり低下し、凍結や降雪の場合もある。場合によっては10月下旬でも降雪があることもあるので、油断できない。
危険な岩稜帯は多くはないが、標高2000m級の中級山岳地帯であり、標高差が大きい上に歩行時間も長く体力が求められる。余裕を持った計画で臨みたい。
奥秩父の盟主ともいえるどっしりとした山容で、日本百名山に数えられる。「きんぷさん」と読む。かつては信仰の山として登拝が行われていた山だ。山頂にある五丈岩がシンボリックで、遠くからでも金峰山とわかる。山頂部は森林限界の上にあり、八ヶ岳、南アルプスなどの展望がすばらしい。
登山道は瑞牆山荘や廻り目平、大弛峠からのびているが、川上牧丘林道が通る大弛峠からの往復が一番登りやすい。峠から樹林帯を進み、朝日峠へ。眺めのよい岩尾根に出て、さらに樹林帯を進む。鉄山の北側を通りハイマツ帯となり、シンボリックな五丈岩(五丈石)が鎮座する金峰山山頂部に到着する。
帰路は往路を戻るが、廻り目平や瑞牆山荘方面へのコースを計画に組み込んでもよいだろう。マイカーの場合は大弛峠には駐車場があるが、人気コースのためシーズンや週末には満車になることが多い。予約制のバスやタクシーの利用も考慮したい。また、大弛峠に至る川上牧丘林道は、例年10月下旬頃から冬季閉鎖になるため、こちらもあわせて最新情報を確認のこと。
高低図
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奥秩父西部にそびえる日本百名山、瑞牆山。「みずがきやま」という読み方は知っていても、いざ書くとなると難しい。花崗岩の岩峰がそそり立つ、きわめて特徴的な山容であり、麓からみると圧倒的な存在感である。神秘的な巨岩も点在しており、廻り目平と並んでクライミングの聖地となっている。
みずがき山自然公園を起点に不動沢コースを周回することもできるが、瑞牆山荘からの往復が登りやすい。瑞牆山荘から富士見平小屋に向かい、天鳥川にいったん下る。途中にある桃太郎岩が圧巻だ。急登をがんばり大展望の山頂に到着。山頂部は展望抜群だが、岩場になっているので転落には十分注意のこと。帰路はもと来た急な道を慎重に下り、瑞牆山荘へと戻る。
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「こぶしがたけ」と読む、奥秩父を代表する日本百名山。その名の通り山梨、埼玉、長野の三県境に位置する。日本最長河川である千曲川(信濃川)のほか、首都圏に流れ出る荒川の源流の山でもある。
西沢渓谷入口から西沢渓谷に向かって進み、渓谷入口の手前で徳ちゃん新道に取り付く。近丸新道には不安定な箇所があるので徳ちゃん新道を登っていく。ひたすら戸渡尾根を登っていき、近丸新道との分岐、シャクナゲに囲まれた箇所などを過ぎ、縦走路に飛び出す。展望のない木賊山を過ぎると、甲武信ヶ岳の山頂が見える。甲武信小屋分岐を過ぎ、少しで山頂に着く。
西沢溪谷入口からの日帰り往復は健脚向けだ。できれば甲武信小屋に宿泊してゆったりとした山旅を楽しみたい。
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笠取山・唐松尾山は、奥秩父山域の中心あたりに位置し、縦走路の南側一帯は多摩川上流部であるため東京都の水源林として管理され、豊かな原生林が広がっている。笠取山は多摩川源流の山として知られているが、唐松尾山は訪れる人はあまり多くないので、静かな山旅が楽しめるだろう。
将監峠入口をスタートしてまずは山ノ神土を目指す。孤峰、和名倉山への分岐でもある山ノ神土を過ぎ、御殿岩分岐に着く。さらに進んでたどり着いた標高2109mの唐松尾山は残念ながら展望はないが、北側の岩場から展望が広がる。黒塊ノ頭を過ぎ、水干への分岐に着く。水干は多摩川源流の地、せっかくなので立ち寄っておきたい。分岐に戻り笠取山へ。最高点の中央峰よりも西峰の方が展望がよい。笠取山からの急な道を注意しながら下る。気持ちの良い草原と林が広がるトレイルを進み、笠取小屋から一休坂を下って作場平へ。
マイカーの場合、作場平に駐車できる。紹介コースは将監峠入口スタートで反時計回りの周回だが、作場平を起点に笠取山、唐松尾山を目指す時計回りの周回でもよいだろう。
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甲武信ヶ岳の北側を周回するコース。シャクナゲで彩られる十文字峠、そして埼玉県の最高峰である三宝山、甲武信ヶ岳、そして千曲川源流をたどる。山小屋が2つあるので、どちらかに一泊してゆったりと山旅を楽しむのがよいだろう。
起点は長野県側の毛木平。駐車場があるので、マイカー登山に便利だ。八丁坂を登り十文字峠へ。峠には風情ある十文字小屋が建ち、周辺はシャクナゲが多い。峠からは稜線をアップダウンして、三宝山へ。標高2483m、埼玉県最高峰である。さらにひと登りで甲武信ヶ岳に着く。周囲の展望を楽しんだ後、縦走路を西側に向かい、毛木平方面に下る。しばらくで千曲川水源地標が立つ場所へ。ここからさらに下っていくが、登山道は沢沿いのため、台風の影響で荒れる場合もあり、増水時も注意が必要だ。
ちなみに十文字峠から秩父側の栃本方面に下る道は、かつての往還道。距離があり健脚向きのコースだが、なだらかな道で静かな山旅を味わえるだろう。
高低図
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東京都最高峰の百名山、雲取山。そして雲取山の西方にたたずむ飛龍山をつなぐ。飛龍山は堂々たる山で、標高2077mと雲取山よりも高いが、賑やかな雲取山に比べると、訪れる登山者はぐっと減る。山頂からの展望はあまり期待できないが、飛龍権現からすぐの禿岩は大展望だ。
これらは多摩川源流の山。2山をつなぐコースを歩けば、水源の豊かな自然を存分に味わえることだろう。山小屋を利用して無理のない山旅を楽しみたい。
雲取山への代表的な起点のひとつである鴨沢からスタート。小袖乗越を過ぎ、登り続けて堂所に到着。七ツ石小屋からは石尾根に出て七ツ石山に向かうが、ブナ坂への巻き道もある。さらに緩やかな稜線を進み、小雲取山を過ぎれば大展望の雲取山山頂に着く。山頂北方には雲取山荘があり、通年営業なのがありがたい。
翌朝、再び雲取山山頂に立ち、飛龍山に向かって奥秩父主脈縦走路へと足を踏み入れる。三条ノ湯への分岐である三条ダルミ、北天のタルを過ぎれば飛龍権現だ。ここから20分ほどで飛龍山山頂に着く。飛龍権現まで戻り、すぐの禿岩に立ち寄ろう。山並みの大展望がすばらしい。帰路は丹波まで下るが、サオラ峠からはとくに急で、計画以上に時間がかかるかもしれない。時間に余裕を持った計画で臨みたい。
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二百名山、和名倉山(白石山)は、奥秩父主脈縦走路から外れた孤高の山。往復9時間半以上かかるため、かなりの強行軍。また倒木や笹ヤブなど不明瞭な箇所があり、ルートファインディングに注意を払いながらのハードな山行となる。体力、経験を十分に備えた登山者でないと踏破は難しい。日帰りの場合は早朝出発だが、日が短い秋は十分注意を。また麓に前泊や幕営利用のプランも考慮したい。
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最後に紹介するのは、西は瑞牆山から東は雲取山までの縦走路を全部つなぐというもの。総計約70kmの大縦走である。奥秩父の縦走路には山小屋がいくつもあるので、うまく利用すれば主脈縦走も可能となる。向きは、全体的に標高が下がる向きであることや、アクセスの点からも奥多摩駅方面に向かう方がよいだろう。
日数を要する縦走になるので、天候による足止めなどもありうる。予備日をしっかり確保しておくことが望ましい。また、以下では5泊6日としているが、これが正解というものではない。瑞牆山はパスしようとか、山小屋宿泊は別の所でとか、1日の歩行時間はこのくらいにしよう・・、などご自身のプランや実力に応じて判断の上、計画いただきたい。登山計画を簡単に立てられるヤマタイムを活用するなど、入念に登山計画のご検討を。
なお、そこまで長期休暇が取れないという方も多いだろう。その場合は、分割して踏破するのも手かもしれない。
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