まだ雪の上を歩きたい! ゴールデンウィークに登りたい山 残雪登山編

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春の陽光が暖かな5月でも、高山や北方の山ではまだ雪が残る。山麓の新緑と稜線の雪。夏でも冬でも味わえない、今だけの残雪登山を楽しもう。

目次

5月の残雪登山を楽しむために

燕岳の稜線から見た、朝焼けに染まる槍ヶ岳

ゴールデンウィーク(以下、GW)でも、雪山登山を楽しめる場所がある。日本アルプスや東北、北海道の高山では、まだ雪が残る。山麓の新緑や、露出した岩肌と雪のコントラストなど、冬山とはまた異なる景色が美しい。

残雪季の山は、冬山と比べると幾分か登りやすい。冬季といわれる12〜3月の天候と比べて、4〜5月は比較的晴天になりやすい。登山者が多い山ではトレースがしっかりとつけられ、ラッセルやルートファインディングの必要がない場合も多くある。日照時間は冬季よりも長くなるので、行動時間も冬季より余裕をもてる。冬季に休業していた山小屋が営業を始める所も多い。雪山登山初心者でも登りやすい季節と言えるだろう。

ただし、冬期よりも難度が下がるとはいえ、残雪期も雪山であることには変わりない。GWには、毎年のように遭難事故が発生している。GWは基本的に春の気候だが、まれに冬の気候に逆戻りすることがある。天気予報を確認して、冬型の気圧配置になっている時は山行を中止した方がよい。また、雪が少ないとはいえ、アイゼンやピッケルを使いこなせる技量が必要だ。

今回はGWの残雪登山でも、雪山技術的に比較的登りやすいコースをピックアップして紹介する。

たおやかな残雪の稜線を歩き、すばらしい展望の頂へ 会津駒ヶ岳(あいづこまがたけ)

福島県/2133m
駒ヶ岳登山口バス停〜駒の小屋〜会津駒ヶ岳〜駒ヶ岳登山口バス停/1泊2日  計6時間25分

会津駒ヶ岳山頂から、燧(ひうち)ヶ岳方面の眺め

福島県檜枝岐(ひのえまた)村に位置する、どっしりとした山容が印象的な山。山頂付近に湿原を擁し、夏には高山植物の群落が楽しめる山であるが、残雪の時期は広々とした雪原の景観と尾瀬や越後などの山々の展望が魅力だ。駒ヶ岳登山口から往復のルートは、公共交通機関利用でもアクセスがしやすい。早朝発なら日帰りで歩くことができそうだが、山頂直下の駒の小屋に宿泊して山の魅力を満喫する1泊2日の行程をおすすめしたい。

舗装道路を進み、滝沢登山口から階段を上って山道に取り付く。新緑が美しいブナの森のなか、急な登りと緩い登りが交互に現われながら、高度を上げる。登っていくうちに、燧ヶ岳など尾瀬方面の山々が樹林越しに眺められるようになる。森林限界を越え、目の前に会津駒ヶ岳のたおやかな山頂部が眺められるようになれば、駒の小屋はもうすぐだ。小屋から山頂までは緩やかに斜面を登って20分ほどの道のり。山頂からは燧ヶ岳、至仏(しぶつ)山が間近に見え、東側には日光連山、西側には越後駒(えちごこま)ヶ岳や中ノ岳、平(ひら)ヶ岳。360度の展望が広がっている。ゆっくり時間をとって景色を楽しんでいこう。

帰りは来た道を戻る。時間と体力に余裕があれば、中門(ちゅうもん)岳まで足を延ばしたい。たおやかな稜線散歩で片道1時間弱の道のりだ。(文=西野淑子)

道中はブナの新緑が美しい
山頂まではたおやかな斜面を歩く

山行アドバイス

会津駒ヶ岳の山頂周辺は広くなだらかな斜面。残雪期、霧に覆われていると方向がわかりづらくなるので注意が必要だ。10本爪以上のアイゼンとピッケルなど、冬季に準じた装備を。

山麓情報

登山口周辺には日帰り温泉が点在しており、バスを待つ時間を調整して汗を流していきたいところ。檜枝岐村はそばがおいしいことで有名でもあり、下山後にそばや山菜料理などを味わって帰るのもよい。

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立山黒部アルペンルート利用で3000m級の残雪登山 立山(たてやま)

富山県/3015m
室堂(むろどう)〜一ノ越(いちのこし)〜雄山(おやま)〜一ノ越〜室堂/日帰り  合計4時間4分

室堂内のみくりが池から立山の稜線を仰ぎ見る

古くから信仰の山として知られ、日本三霊山のひとつにも数えられている立山。立山黒部アルペンルートで登山口の室堂に下り立てば、すでに標高は2450m。ここから雄山神社のある雄山山頂をめざす。室堂周辺や雷鳥平の山小屋を利用する1泊2日の行程で、山も温泉も存分に楽しみたい。

室堂で大日三山(だいにちさんざん)などの眺めを満喫したら、まずは一ノ越へ向かう。最初はなだらかで広い斜面、一の越山荘の直下がやや急だ。一ノ越から先がこのルートの核心。所々岩が露出していたり、硬い雪壁状になっているところがあるので、一の越山荘の前でアイゼンやピッケルを準備しよう。よく締まった硬い雪の斜面を、しっかりアイゼンやピッケルを利かせながら進む。風の強い稜線で、岩や道標に付いた雪が氷雪のオブジェのようになっている。いったん傾斜が緩み、露出した岩の間を縫うように登っていき、雄山神社の社務所の前を通って雄山の山頂へたどり着く。北アルプス北部の山々が連なる、すばらしい眺望を満喫しよう。

帰りは来た道を戻る。雪壁状になった斜面は登りより下りのほうが緊張するかもしれない。慎重に下ろう。(文=西野淑子)

浄土山から雄山を眺める
アルペンルートでは雪の大谷を見ることができる

山行アドバイス

室堂から短時間で登頂できるとはいえ、標高3000m級の山。降雪、強風などの悪天候時は真冬の厳しさになり、GWは天候の急変による遭難も多い。慎重な判断を。10本爪以上のアイゼンとピッケルなど、積雪期に準じた装備に加え、ビーコンなどの雪崩対策の装備も必携だ。

山麓情報

立山登山のベースとなる室堂。立山黒部アルペンルートで最も高い場所に位置する室堂ターミナルには、立山の名産品が豊富にそろう売店や、富山の味覚が味わえるレストランがある。下山後、乗り物を待つ時間に立ち寄っていこう。

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リフト利用でめざす展望抜群の雪山の頂上 唐松岳(からまつだけ)

富山県・長野県/2696m
八方池(はっぽういけ)山荘~丸山ケルン~唐松岳頂上山荘~唐松岳~丸山ケルン~八方池山荘/前日泊日帰り  計6時間35分

唐松岳山頂から見た剱(つるぎ)岳

JR大糸線に並ぶように稜線が続く後立山(うしろたてやま)連峰は、北アルプスの中でもアクセスがいい。特に人気が高いのは、八方アルペンラインのリフトが利用できる唐松岳。残雪期に頂上をめざす登山者も数多い。健脚であれば日帰りでも登れるが、初日に移動して八方池山荘に泊まり、翌日早朝に出発して山頂を往復するのが確実だ。

登路となる八方尾根には、目印になる大きなケルンがある。まずめざすのは、八方山ケルン。さらに第2、第3とケルンを過ぎて、ダケカンバの目立つ下ノ樺(しものかんば)、上ノ樺(かみのかんば)を登れば、五竜(ごりゅう)岳と鹿島槍(かしまやり)ヶ岳を雄大に望む丸山ケルン。やがて狭まった尾根を慎重に登ると、唐松岳頂上山荘の脇に出る。そこからひと登りで山頂に着けば、鋭い剱岳をはじめとした三六〇度のすばらしい景色が待っている。(文=木元康晴)

唐松岳から見た五竜岳
唐松岳頂上山荘から山頂までは往復40分程度

山行アドバイス

八方尾根はなだらかで登りやすい印象があるが、強風のときの風の強さは猛烈で、歩行困難になるほど。また視界がわるいと方向を見失いやすい。特に下山時に、枝尾根を下ってしまうことが多い。悪天候時の登山は控えるようにしたい。今年の唐松岳頂上山荘は6月中旬から営業する予定で、GW期間は利用できない。12本爪アイゼンを着用し、傾斜が緩い下部ではストックも有効だが、丸山ケルンから先はピッケルで。確実な歩行技術に加えて、強風時に備えて耐風姿勢がとれることも重要。

山麓情報

白馬八方バスターミナルの前には、白馬八方温泉 八方の湯があって日帰り入浴ができる。9~22時、850円。また白馬駅から徒歩約10分のみみずくの湯でも日帰り入浴可能。10~21時、700円。周辺にはほかにも食堂やお土産物屋は数多い。

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心地よい雪の尾根を登り槍ヶ岳を望む頂上へ 燕岳(つばくろだけ)

長野県/2763m
中房(なかふさ)・燕岳登山口~合戦(かっせん)小屋~燕山(えんざん)荘~燕岳~燕山荘~合戦小屋~中房・燕岳登山口/1泊2日  計9時間15分

燕山荘前から見上げた燕岳

燕岳は、北アルプスでは登りやすい山の一つ。GWも多くの登山者が取り付き、コースは明瞭なので雪山初級者もめざしやすい。槍ヶ岳から立山方面まで、北アルプスの山々を一望できる大パノラマが楽しめる。

中房・燕岳登山口から、北アルプス三大急登の一つに数えられる合戦尾根へ。登山口から第一、第二、第三、富士見と、歩行約30分間隔でベンチが続いて無理ないペースで登っていける。売店とトイレのある合戦小屋で休憩し、ひと登りで合戦沢ノ頭に着くと左手遠くに鋭い槍ヶ岳が姿を現わす。そこから上部は、岩場はすべて雪の下。尾根を忠実に登って、宿泊する燕山荘をめざそう。

翌朝は日の出と、モルゲンロートに染まる槍ヶ岳を見てから出発。イルカ岩、メガネ岩とたどって燕岳山頂に向かう。さえぎるもののない絶景を楽しんだら、慎重に往路を下る。(文=木元康晴)

燕山荘をめざして合戦尾根上部を登る登山者たち
絶景スポットとして名高いイルカ岩。奥には槍ヶ岳も見える

山行アドバイス

稜線上の燕山荘に宿泊し、1泊2日で登る。初日は11時にはスタートしたい。合戦小屋までは樹林の中だが、左右が切れ落ちている箇所もあるので充分に注意すること。悪天候の影響は比較的受けにくいコースだが、森林限界を超える合戦沢ノ頭から上は、視界のわるいときや風の強いときは、充分に注意が必要。12本爪アイゼンを着用する。下部の樹林帯ではストックも有効だが、合戦小屋からはピッケルを使用する。燕岳直下は雪がないことも多いので、アイゼンの爪で岩を確実にとらえて登ろう。

山麓情報

たくさんのお風呂がある中房温泉で、日帰り入浴ができるのは湯原の湯。9時半~17時、950円。また車道を約10分下った有明荘でも日帰り入浴できるほか(10~17時、700円)、食堂も併設されていて山賊焼き丼などを味わうことができる。穂高駅へ向かうバスは、有明荘の前にも停留所がある。

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槍ヶ岳や穂高連峰を望む大迫力のパノラマを満喫 蝶ヶ岳(ちょうがたけ)

長野県/2677m
上高地(かみこうち)〜徳沢(とくさわ)〜横尾(よこお)〜蝶ヶ岳〜徳沢〜上高地/1泊2日 計12時間25分

蝶ヶ岳から槍・穂高連峰を眺める

槍(やり)ヶ岳や穂高(ほたか)連峰を望む最高の展望台・蝶ヶ岳。上高地を起点に蝶ヶ岳を往復するコースは、山頂付近の蝶ヶ岳ヒュッテをはじめ、道中に宿泊施設が点在し、1泊または2泊で歩くのが楽しい。蝶ヶ岳ヒュッテに宿泊すれば夕日や朝日に染まる山並みを眺められ、感動もひとしおだろう。日程に余裕があれば徳沢をベースに2泊3日の行程もいい。

往路は横尾経由で。上高地から新緑の散策路を進み、横尾から急な登りが始まる。見晴らしのない樹林の急登が続くが、槍見台で槍ヶ岳が眺められるとうれしくなる。常念(じょうねん)岳から蝶ヶ岳への稜線に出ると眺望が開け、左右に山並みを眺めながら蝶ヶ岳山頂へ向かう。蝶ヶ岳ヒュッテの建物を過ぎれば、山頂の看板はもうすぐだ。山頂は文字通り三六〇度の大パノラマ、雪をまとった北アルプスの山々が間近に眺められ、天気に恵まれれば富士山や南アルプス、八ヶ岳連峰まで見渡せる。

蝶ヶ岳山頂からは長塀(ながかべ)尾根を下り、徳沢へ。下り始めてほどなく樹林帯に入り、徳沢に近づいてくると傾斜がかなり急になる。歩き疲れているところなので、慎重に進もう。徳沢からは平坦な散策路の歩行で上高地へ。(文=西野淑子)

蝶ヶ岳ヒュッテと常念岳
森林限界を越えれば視界が一気に開ける

山行アドバイス

蝶ヶ岳の山頂からは登山道が四方に分かれている上、山頂は広々としているので下山時には下る方向を慎重に判断したい。とくに霧の深いときは要注意。10本爪以上のアイゼンとピッケルが必要だ。

山麓情報

北アルプス南部の山々の登山の起点となる上高地。梓川沿いに宿泊施設が立ち並び、施設内の売店やレストラン、カフェなどに立ち寄ることができる。下山後の温泉は中の湯温泉旅館坂巻温泉旅館、沢渡(さわんど)にも日帰り入浴施設がある。

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ゴールデンウィークに登りたい山

2024年のGWは、4月27日(土)から4月29日(月)の3連休と、5月3日(金)から5月6日(月)の4連休の長期休みとなります。 この大型連休をどのように過ごしますか?  長距離縦走から登山と観光を混ぜた計画まで、GWだからこそできる登山のプランを紹介します。

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