ルポ・奥穂高岳。ガイドツアーで歩いた涸沢・穂高3泊4日

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中部山岳国立公園を間に挟み、松本市街地と高山市街地を繋ぐルートの新たな観光圏としての確立をめざす「松本高山Big Bridge構想実現プロジェクト」。その取り組みの一つとして、2022年9月に、奥穂高岳・涸沢を歩く3泊4日のモニターツアーが松本市アルプス山岳郷により行なわれた。“北アルプスという日本最高峰の山々に立ち入ることへの「理解」や「学び」を得られる旅”をテーマに、上高地~横尾~涸沢~奥穂高岳を登山ガイドとともに歩いた。記事ではツアーの様子をお伝えする。

文=山と溪谷オンライン部、写真=花岡 凌

DAY1:上高地~横尾

上高地に集まった参加者は、多数の応募者から抽選で選ばれた20代~30代の男女4名。登山ガイドは、加集安行さん。上高地のバスターミナル前で自己紹介をし、さっそく出発・・・の前に、上高地ビジターセンターに立ち寄った。ビジターセンター内に設置された周辺エリアの模型を見ながら、今回の行程の確認をする。「今日はここ、横尾に泊まります。明日はこの屏風岩をぐるっと回って涸沢へ・・・」。加集さんの説明に、「わくわくしてきました!」と参加者のアズマさん。

DAY1:模型を使って行程の説明中
模型を使って行程の説明中
DAY1:横尾をめざして出発
横尾をめざして出発

初日の目的地、横尾までは、梓川沿いの比較的平坦な道を歩く。一列になり、時折、加集さんの解説や突発クイズを挟みながら進んでいく。

DAY1:梓川の広い河原を前に、加集さんのお話に耳を傾ける
梓川の広い河原を前に、加集さんのお話に耳を傾ける

現在、梓川では管理道路を付けなおす工事が進められている。川の流れを自然なものにしてケショウヤナギをはじめとする植生を守るためだ。ケショウヤナギは上高地を代表する木。梓川の流れで堆積した土砂に真っ先に生える。そのような、ほかの植物に先立って生えるものを「パイオニアプランツ」というそうだ。

DAY1:横尾山荘に到着!
横尾山荘に到着!

明神、徳沢を経て、上高地から約3時間で、横尾山荘に到着。横尾山荘ではうれしいことに入浴ができる。おいしい夕飯を食べ、汗を流してすっきりリフレッシュできた。

DAY1:フレッシュな野菜や果物がうれしい横尾山荘の夕食
フレッシュな野菜や果物がうれしい横尾山荘の夕食

就寝前には、インストラクター資格をもつというツアー同行スタッフのマツクラさん指導でヨガをした。胡坐をするのも厳しいという加集さんの体の硬さに、みんなびっくり。

DAY1:就寝前にヨガで体をほぐす一同
就寝前にヨガで体をほぐす一同

DAY2:横尾~涸沢~奥穂高岳

朝からどんよりした天気だ。雨こそ降ってはいないが、灰色の雲が空を覆っている。今日の行程は、涸沢から穂高岳山荘まで。明日もいまいちな天気予報なので、奥穂高岳に登頂するかは天気次第だ。

休憩スポットの本谷橋に着くと、吊り橋の少し上流で、数人が集まってなにか作業の相談をしている。涸沢ヒュッテのスタッフやサポートメンバーが、仮橋の設置作業の準備をしているそうだ。吊り橋は冬の雪に備えて10月の連休後に撤去されるという。このような仮橋の設置や、登山道整備は山小屋によって行なわれている。

DAY2:仮橋設置の準備中
仮橋設置の準備中

本谷橋からさらにひとがんばりで、涸沢に到着だ。9月末ということで、紅葉にはまだ早いが、ナナカマドの実が赤くなっていた。

DAY2:ナナカマドの実
ナナカマドの実

涸沢で休憩中も相変わらず頭上には灰色の雲がかかっている。なんとか回復してくれないかなぁと願いつつ、軽食をお腹におさめ、涸沢を後にする。

DAY2:どんよりした空の下、出発
どんよりした空の下、出発

涸沢小屋からしばらくは、雨が降ったり止んだり。ところが、ザイテングラートにさしかかるころに、みるみるうちに空が明るくなり、青空が見えてきた。さっきまでガスの向こうだった涸沢カールもよく見える。

DAY2:ギザギザの前穂北尾根
ギザギザの前穂北尾根

これは奥穂高岳の山頂に行かねば!と、みんな俄然やる気になり、ザイテングラートを突破。穂高岳山荘前のテラスで一服して荷物を整理した後、さっそく山頂へ向かう。

山荘が立つコルからの登りだしは、高度感のあるハシゴや岩場が続く。ちょっと不安そうなマツイさんも、「小さなステップを見つけて」と加集さんのアドバイスを受けつつ、登っていく。

DAY2:岩場の登りでも、笑顔でポーズ
岩場の登りでも、笑顔でポーズ
DAY2:後には槍ヶ岳
後には槍ヶ岳

急な岩場を乗り切ると、高度はさらに上がり、周囲はまさに絶景。 「槍だ!」「あっ、富士山!」「あの双耳峰は鹿島槍ヶ岳ですね」。数十分前までの天気が嘘のような青空と展望に、みんな大興奮。山頂ではしばらく写真撮影タイムが続いた。

DAY2:山頂にて。右後ろにジャンダルム
山頂にて。右後ろにジャンダルム

うれしいことに天気はそのまま夜まで安定し、夕日や星空も堪能できた。昼までは展望はもう期待できないかなぁと思っていたのに、山ではたまにこんなご褒美があるものだ。

DAY2:夕飯タイム。まずはお茶を一杯…
夕飯タイム。まずはお茶を一杯…
DAY2:雲海に沈む夕日を撮影中のイナバさん
雲海に沈む夕日を撮影中のイナバさん
DAY2:奥穂高岳の背景に天の川
奥穂高岳の背景に天の川
NEXT DAY3:穂高岳山荘~涸沢
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この記事に登場する山

長野県 岐阜県 / 飛騨山脈南部

奥穂高岳 標高 3,190m

 奥穂高岳は穂高連峰の中央にそびえる盟主である。標高3190mは富士山の3776m、南アルプスの北岳の3192mに次ぐ日本第3位の高峰で、頂上に造られた2mを超す大ケルンの上に立つと第2位になろうかという高峰なのである。しかも堂々と大きい山容がいい。  山頂で綾線が分岐し、南西に延びる岩稜は馬ノ背からジャンダルムの奇峰を経て、間ノ岳、西穂高岳、焼岳へと延びる。  もう1つの岩稜は南東へ吊尾根となってたわみ、前穂高岳、明神岳となって上高地に雪崩落ちていく。  山稜は硬いひん岩(ひんがん、ひんは「王」偏に「分」の字)の破片に覆われ、岩屑の堆積した山だ。南東側は涸沢のカールが削り取った断崖で、南面は岳沢が急角度に落ち込み、上高地や乗鞍岳が見える展望の優れた山頂である。  山頂から100mほど西へ向かってから右に折れる主稜線を、うっかり見落として直進すると急傾斜にセバ谷に落ち込んでしまう。毎年のように事故を起こす「だましの尾根」だ。主稜線を北に下ると白出乗越で、穂高岳山荘がある。  頂上から南西に延びる岩稜は、奇峰ジャンダルムに続いている。前衛峰、門番といった意味のフランス語だが、むしろ独立峰と呼びたい山で、悠々としてとりとめのない奥穂高岳をきりっと引き締めている。  初登頂は明治42年(1909)の鵜殿正雄パーティで、槍ヶ岳への初縦走の途中だった。彼は大正元年(1912)には岳沢から天狗沢に入り、天狗のコルからジャンダルムを経て奥穂高岳の初トレースをしている。穂高岳開拓のパイオニアとして銘記されるべき人である。  穂高連峰の開拓は信州の梓川側が早く、山小屋もほとんど信州人が占めているが、奥穂高岳だけは、白出乗越に飛騨の名ガイド、今田重太郎が小屋を建てて登山者の安全を期した。1度登山者の不始末で全焼したが再建し、現在では近代的な山荘になっている。  一般登山道は涸沢からザイテングラートの岩尾根を登って白出乗越に出、奥穂高岳へ向かう。涸沢から白出乗越まで2時間、それから奥穂高岳頂上まで1時間。  飛騨側からは、新穂高温泉から蒲田川右俣を白出沢出合まで2時間、白出沢を登って白出乗越まで7時間。静かな谷のいいコースで、下りに使えば白出乗越から5時間30分で新穂高温泉に着き、バス停前の無料温泉で山の汗が流せるので、山好きに好評である。  上高地から岳沢を経て前穂高岳、吊尾根、奥穂高岳のコースは9時間で頂上に着く。少しきついが、登り甲斐のある道だ。

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