「急に目の前が真っ白になりフラフラに・・・」登山者の遭難・ヒヤリハット体験 体調不良編

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山と溪谷オンラインで実施したアンケートで集めた、遭難・ヒヤリハット体験の中から、体調不良に関する体験談を紹介。

構成=山と溪谷オンライン、イラスト=KITO

疲労や体調不良による遭難も増えているようです。2023年の夏では、「疲労・病気」の遭難が過去10年で最大比率となりました。(参考:2023年夏、ついに山岳遭難が史上最多に。夏山シーズンになにが起きていたのか

今回の記事では体調不良、特にハンガーノック(シャリバテ)や熱中症の体験談を紹介します。

深夜バス移動で寝不足と疲労に

■登山を始めたてのころに雲取山を登ったときのお話です。当時は大阪に住んでいたので、深夜バスで東京へ向かい電車を乗り継ぎ登山口から登り始めましたが、山頂手前のピーク(おそらく小雲取山)で耐えがたい眠気に襲われて、登山道の脇で小一時間ほど眠りこけました。後から同行者に聞いた話では、ほとんど意識を失うように眠りに落ちたとのことです。道中すでに眠気と疲労と空腹を感じながら歩いており、どうやらその地点で限界を迎えたようです。原因は夜行バスでの移動による寝不足に加えて、普段から体力任せの山登りをしていたので、ペースやエネルギー補給の配分を考えなかったことによるハンガーノックである可能性が高いです。暖かい季節だったからよかったものの、気象条件がわるかったらと思うと・・・。ツエルトなどのビバーク装備なんてもちろん持っていなかったので、迂闊以外のコメントが思い浮かびません。怖い体験、苦い教訓として今でも鮮明に記憶しています。(いしだ さん/男性/20代)
【その後の対策】万が一に備えて予備食やツエルトなどのエマージェンシー装備をどんな登山の際にも必ず携行するようにしています。基本中のキですが、登山を続けていると意外とこれらの装備を持ち歩いていない人がいることに気付きます。どんな低い山でも甘く考えず、もはや習慣として装備の中に入れるようにしています。それとあとは、体調管理でしょうか。これも当たり前のことですが、往々にして遭難事故というのは当たり前のことができていないがために起こるものだと、昨今の遭難事故の報を聞いてあらためて思い知らされます。

「ハンガーノック」という言葉を思い出し・・・

■8年前の初登山ぶりに突然、山に登りたくなった。選んだのは塔ノ岳。山好きの友達もおらずソロ登山だ。事前の調べも登山計画の提出もすませた。初心者でも登れる登りがいのある山らしい。とは言えバカ尾根は退屈だ。私は政次郎尾根ルートを選んだ。序盤は沢があり、退屈しない。メジャールートじゃないからだろうか、誰ともすれ違わない。楽しく長い林道を歩き、急登に差し掛かった。普段運動はしていないが、体力に自信はあった。それなりの高さが出てきて道も険しくなってきたとき、突然身体が動かなくなった。頭も働かず、左右は崖。登山道で転びかけたとき、奇跡的に「ハンガーノック」という言葉を思い出した。そう言えば朝食はかなり軽くしか食べてない。完全にエネルギー不足だ。歩き始めて3時間経過したところだった。気づいてからは早く、ゼリー飲料とふ菓子を食べた。荷物を減らしたくて行動食は少な目だったが、軽いからとふ菓子をたくさん持っていた。口はぱさついたが、少し休むと身体が動く。私はなんとかメジャールートまで登り切ることができた。(ぬまず さん/男性/30代)
【その後の対策】当日は朝食をしっかりとる。行動食は高カロリーで糖分のあるものをちゃんと準備するようになった。

チョコバー1本と飴で下山

■友人と2人で金峰山に登ったときの事。お昼に食べようとしていたおにぎりを落としてしまい、予備として持っていた食料がチョコバー1本と飴しかなく、シャリバテ状態でふらふらになって下山しました。早く下山したいのに手足に全く力が入らず、日は暮れてくるしつらかったです。下山後にごはんを食べるのもつらかったですが、少しずつゆっくり食べて休んで回復しました。(mko さん/女性/50代)
【その後の対策】食料は、一食分はスナックではなくちゃんと食事になる物を持ち、そのほかに、手軽に食べられる補給食を持つことにしました。

山頂までのピストンでも水不足に

■剣山荘を早朝に出発し剱岳を往復したときに、同行者が下山時に熱中症になりかけた。自分が小屋まで降りて水を持って戻り、ことなきを得た。午前中に小屋まで戻るため、水を500ccしか持っていかなかった判断ミス。(ゆーじ さん/男性/40代)
【その後の対策】天候や行程に関わらず常に水を2L以上携行するようにした。

水分補給で思わぬ危険に

■真夏の早朝、立山のテント泊から重い荷物を背負い、縦走中のこと。快晴で、気温はグングン上昇した。熱中症にならないように気を付けて水分はよく取っていた。同行者は1人。1時間くらいゆっくりと歩いた所で同行者がトイレ休憩し、私は1人で立ったまま休憩。へとへとではなかった。道幅は1mと狭く、片側は崖の場所だった。そこで暑かったので水をたくさん飲んだ。すると、急に目の前が真っ白になり、フラフラした。同行者が戻ってきて安全な所に誘導してくれた。後から連日の登山の疲労と水中毒ではないかと推測。同行者がいなかったらと思うのと、自分では元気と思っていただけに今考えても恐ろしい体験だった。(びばんだむ さん/女性/50代)
【その後の対策】水分を取るときは塩分やミネラルも一緒に取る。せっかく遠くまで来たからといって無理しない。
※水中毒……水分のみを大量に摂取したことで、血中のナトリウム濃度が急激に低下した際におこる症状。

最高気温の日に

■2年ほど前の真夏の雲もない晴れの日、秋田の鳥海山へ主人と2人で登山口から出発。初めはなにごともなく、順調に進んでいました。経験の浅い主人との登山だったので、私がリーダーでした。「山に来たら登頂してなんぼ」という考えしかなく、なにか起きて断念した経験がなかった私は、途中からどんどん気温が上がり、頭痛がし始めていたが、たいした休憩も取らず、がむしゃらにアタックしていました。あと少しで頂上というところで、体調も絶不調になり、レジャーシートで多少の日陰をつくり1時間程度休みました。しかし体調も戻らず、時間も過ぎていくばかりなので、下山をすることに。少し休みながら下山しましたが、長い登山道なので途中から暗くなり、ほかの登山者もほとんどいなくなってしまいました。そのままなんとか下山できましたが、救助を必要とするほどにならずよかったと今でも思います。その日はその年の最高気温になった日だったと、後から知りました。それ以降は登頂ばかりをめざさず、体調、天候など、無理のない登山を心がけています。(トラ さん/女性/40代)
【その後の対策】その時々で状況によっては、途中でも断念するということを心掛けています。遠くまで行って悔しい思いをするときもありますが、山は逃げないし、またこの景色を見に来る楽しみができたのだと自分に言い聞かせています。

脱水症状に気が付かず、腎不全に

■静岡県の山伏にて脱水症状を起こし、エスケープルートで下山しました。2021年6月(快晴)にソロで山伏~八紘嶺を周回する予定で出発。テント泊デビューを見据え、初めて装備を6、7kgから15kg近くに増やして挑みました。しかし普段の装備と同じ感覚で歩いたため一気に汗をかき、その後も汗だくになりながらの山行で、今から思えば水分補給が全く追いついていませんでした。山頂を過ぎたあたりで足がつりはじめ、体が思うように動かなくなってきましたが、脱水症状を経験したことがなかったので、なにかしらの体調不良だと思い有効な対策が取れませんでした。仕方なく当初の計画を変更しエスケープルートとして大谷嶺を下山しました。日本三大崩れと言われる大谷嶺はずっとガレ場が続く道で、一切日陰がなく脱水がひどくなる結果となりました。また、この段階でも脱水だとは思っていなかったので水分はあまり摂らず、最終的には飲むと嘔吐するようになってしまいました。舗装道歩きの途中も、車の退避スペースを見かける度に横になり休憩していたので端から見れば完全に行き倒れだったと思います。その後もいろいろありながら下山し、文字通りほうほうの体で車まで戻り帰宅しました。翌日、全く声が出なくなっており吐き気も止まらなかったので病院に行ったところ、診断結果は腎不全。体重は59㎏から53㎏まで落ちていました。脱水によるものだったので、今は元気にしています。(takumaru_60 さん/男性/30代)
【その後の対策】こまめな水分補給と塩分補給を心がけています。夏場はそれでも補給が追いつかないことがあるので、そんなときは5分から10分仮眠をとったりしています。

熱中症対策万全でも、強烈に足をつってしまう

■よく晴れた夏、7月の暑い日でした。場所は三重県にある、オハイという徒歩でしか行けない海に面した断崖。行程はずっと森の中を歩き、むしろ涼しくて歩きやすいとすら思っていました。同行者は夫。1時間半程で現地に着き、断崖絶壁と海の絶景を楽しんでいましたが、岩場は日差しを遮るものがなく、炎天下であまりの暑さに1時間もいられず、日陰で休憩をしました。いつもより長めに1時間半の休憩をし、カップ麺のランチ、スポーツドリンク、麦茶などを摂取。水分補給もいつもより多め、塩分補給(塩タブレット)もしっかりして、熱中症対策をしていました。午後1時半、下山開始。しかし直後から足に異変が。体調が悪くなったわけでもなく、下山の体力も余裕でありましたが、足がつってまともに歩けなくなりました。そのつりかたも尋常でなく、まさに七転八倒。5歩歩いては休み、休んでは足がつり、の繰り返し。断崖へ降りる急斜面をなんとか登ったあたりで、座るのもつらい状態だったので横になって1時間ほど休み、自力で歩けるようになりました。頭痛、めまいなどの熱中症の自覚症状は一切ありませんでした。(銀猫先生 さん/女性/50代)
【その後の対策】どんなにしっかり対策をしていても、誰でも熱中症になるんだと自覚しました。夏の暑い季節は山行きを控える、これしかないのかもしれないです。
※足がつる原因はさまざまあるが、水分(ミネラル)不足もその一つで、足がつることは、熱中症の症状。

前日の体調不良が響いて・・・

■奥多摩の鷹ノ巣山で7月末、快晴のもとソロでの稲村岩ルート。東日原を8時にスタート、稲村岩を越えた辺りから滝のような汗が出て脚が前に進まなくなってペースダウン。水分もミネラル、塩分も摂っていたのに? 休憩の頻度も増えてしまい、ヒルメシクイノタワの手前で撤退。原因だと考えられるのは前日の体調不良。お腹を壊していたが、当日の朝には回復していたから決行したのだが・・・。(hide さん/男性/60代)
【その後の対策】いくら水分やミネラルなどを摂取しても、体が吸収できなければ持っていないのと一緒! 前日の体調も重視して、決して過信しないようにしている。

【合わせて読みたい体験談】貴重な水を落としてピンチ!

■北アルプス笠ヶ岳に登山中、貴重な水をザックのサイドポケットに入れていたが、休憩時にザックを降ろしたとき落としてしまい、気づかずに出発。30分くらい歩いたとき気づいた。落としたペットボトルは最後の飲料水だった。途方に暮れていたところ、後から登ってきた登山者に事情を話し少し水を分けていただいた。猛暑の中、非常に危なかったと思います。(やっさん さん/男性/60代)
【その後の対策】飲料水は小分けにして、2Lくらいは持つようにしています。

まとめ

以上、ハンガーノック(シャリバテ)、熱中症などを含む体調不良の体験談でした。

2023年の夏は例年を大きく上回る暑い夏だったので、熱中症になる人が多かったようです。脱水症状が悪化して腎不全になってしまったという方や、ばっちり対策をしていたのに熱中症になったという方もいました。

体調不良時に無理をすると、さらに状況まで悪化することもあり得ます。予防できることは予防しつつ、無理のない計画で登山を楽しみましょう。

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アンケート結果基本データ

実施期間:2023年10月30日(月)~11月12日(日)
有効回答数:284

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体験した内容(複数回答可)

登山者アンケート

山と溪谷オンラインで実施した登山者へのさまざまなテーマのアンケートの結果をご紹介。

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