ハト峰峠~愛知川源流、鈴鹿山脈の奥深き渓谷を探検する

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読者レポーターより登山レポをお届けします。かずきさんは鈴鹿の愛知川(えちがわ)源流へと美麗な渓谷を訪ねたそうです。

文・写真=かずき


6月中旬のある晴れた日、私は鈴鹿の山奥深く、愛知川源流にいた。

梅雨で天候が安定しない中、どこかおもしろい山はないかと山と溪谷増刊『全国絶景低山200』をめくっていたところ、美景・奇景の山特集の「ハト峰峠〜愛知川源流」が目に留まった。東海に暮らす私のホームマウンテンである鈴鹿山脈の奥に、こんな美しい景色があるのか・・・と驚いた。さらに調べると、付近に「鈴鹿の上高地」なるエリアを見つけた。こんな所に上高地があるのだろうか?

暑さやヒルの不安はあったが、精一杯対策して私は現地へ向かった。コースタイムは5時間、標高差もほどほど。ゆるふわ登山を想像していた私はこの時、あんな目に遭うとは夢にも思っていなかった・・・。

登山口は鈴鹿セブンサミットの一つ、釈迦ヶ岳(しゃかがたけ)と同じ「朝明(あさけ)渓谷有料駐車場」だ。広めの駐車場で、料金は1日500円だ。ここから川沿いに進むと「朝明砂防学習ゾーン」に入り、その奥から登山スタート。

朝明砂防学習ゾーン
朝明砂防学習ゾーンまでは舗装道路を歩く

道は木々に覆われており涼しく快適だった。前日までの雨で湿っていたがヒルの気配はなく、花を愛でながら登った。

ヤマボウシやウツギの花を多く見かけた
ヤマボウシやウツギの花を多く見かけた

途中から山の斜面を横切る道に入る。景色が開けて、前後の山の様子がよく見えた。鈴鹿の山は「海、街、そして山」という印象だったので、山に囲まれると別の山域に来たような気持ちになった。この辺りは治山工事もしっかりされており歩きやすかった。

御在所岳を裏から見る
御在所岳を裏から見るのは初めてだった

進み続けると釈迦ヶ岳への分岐に到着。今回は右に行かず、左に進む。

釈迦ヶ岳とハト峰の分岐
釈迦ヶ岳とハト峰の分岐

すると景色が開け、山頂らしきものが見えた。ここがハト峰(羽鳥峰)らしい。前方に何故か「地上絵」が現われた。これは一体、なんだろうか・・・。

ハト峰(羽鳥峰)
ユルい地上絵が見えた

このまま「地上絵」の方に進むと、根ノ平峠を通過し御在所岳(ございしょだけ)に至るが、今回は右に曲がり「愛知川源流」をめざす。・・・しかし、道が見当たらない。通れる場所の先には水場しかなく、しばらくうろうろしていた。

もしやと思って草木の間をのぞくと、道らしきものがあった。違ったら引き返そうと思い進むと、すぐに歩きやすい道になった。正解だったようだ。その先には「羽鳥峰湿原」の看板があった。こんなところに湿原があるとは知らなかった。広くはないが、貴重な存在だ。

羽鳥峰湿原
羽鳥峰湿原。イモリがたくさんいた

湿原のあたりから水が増えてきて、いつしか川の流れになっていた。流れに沿って赤いテープが随所に貼られていたので、それを頼りに下った。「遊漁券必須」という注意書きもあったので、釣り人はよく来るのだろう。しかし道は落ち葉だらけで不明瞭だった。テープがあって安心した。

澄んだ川の流れ
水は澄んでおり気分上々だった

そこから野営適地やきれいな流れを横目に下ると、正面に大きな流れが現われた。これが愛知川源流の神崎川だ。

愛知川源流の神崎川

大きな流れだなー、と思いながら登山道を探すと、そこに道はなかった。

地図を見ると、川を横切って道が引かれている。徒渉せよ、ということだろう。ここはヒロ沢出合であり、これが正解である。注意深く見ると濡れずに渡れそうだったため、石を伝って対岸へ渡った。

対岸をちょっと進んでみたが、地図上の登山道とは明らかに異なる場所だったため周囲を見渡すと、上部に道を発見した。草に覆われていたので半信半疑だったが、進むとゴミが落ちていた。モラルのなさに悲しくなると同時に、人の痕跡を見てちょっと安心した。

ここから神崎川上部の道を進むが、これが不明瞭で歩きづらかった。時折開けた場所に出るが、そこから次の道を探すのも難しい。これかと思って進んだ先に明らかに道がなく、戻って別の所から進むと正解、というのが数回あった。

神崎川上部の道
これでも比較的わかりやすい道。赤いテープを頼りに進んだ

それでも進めたのは、地図に道があったことと、時折看板が立っていたおかげだ。しかし看板がある開けた場所から、次の正しい道を探すのがまた難しかった・・・。

神崎川上部の道
出合うたびに感謝した看板

道中ではアオダイショウがサーッと通って大きな声が出た。当初はヒルに気を付けており、忌避剤を振りかけていたが、この辺りからヒルのことはどうでもよくなっていた。(結局、この日はヒルを1匹も見なかった。)

注意深く進んでいくと、「大トロ」という手作り看板が現われた。

神崎川上部の道
味のある手書き看板

看板に導かれるように登山道を外れて下っていくと、そこにはオアシスのような渓谷があった。ここが大瀞(おおとろ)である。

大瀞
大瀞

木漏れ日が流れに差して美しい。来た甲斐があった。さらにそこには、一組の夫婦がいらっしゃった。この日初めて人に会い大変驚いた。聞くと、朝明渓谷から直接大瀞へ向かう道を通って水遊びに来たそうだ。しばらく流れを見て心を静めた。流れは案外浅そうで、歩いて渡ったら気持ちいいだろうな、と思った。

この辺りで、この愛知川源流はそもそも沢登り・沢歩きを前提にしたコースなのではないか?と思い至った。帰宅後に『全国絶景低山200』を再読したところ、「愛知川の煌めく水流に足を浸し、渓流シューズでのんびりと遡る谷歩き」と書かれていた。また「大瀞以外は難所もなく・・・」という記載も沢登りの視点で書かれた文章だろう。従って 登山道はオマケ、エスケープルートの扱いであり、それ故こんなに人が通らず不明瞭なのだろう、と合点がいった。

しかし私は沢を歩ける装備は持っておらず、経験もない。流れに突入したい気持ちをこらえて、私は再び登山道に戻り、先を進んだのだった。

そこから先も不明瞭かつ歩きづらい道が続いた。特に谷を越える道は、一見すると「ほんとにここ行くの?」という気持ちにさせられる道で苦労した。

愛知川源流の歩きづらい道
ここは左上に登る

こんなことなら大瀞で夫婦が来た道を使って帰ればよかったのだが、私は「鈴鹿の上高地」に行きたかったためがんばって歩いた。

そしていよいよ、地図にある「鈴鹿の上高地」に到着した。

「鈴鹿の上高地」

・・・上高地・・・?

看板には「この先踏み跡程度」と書かれており、確かに明確な道はなかった。土地は開けており確かに野営適地と感じたが、上級者向けだろう。ほどほどに楽しんで、最後に川の真ん中の岩の上で行動食を食べて下山したのだった。

私がこのコースを楽しみ切るには、装備・経験不足だったようだ。

愛知川源流

流れは本当に美しかったので、心が和んでよかった。さらに調べると「紅葉がきれい」など見所がありそうだったので、また機会があれば出直したい。

(山行日程=2024年6月14日)

MAP&DATA

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コース

朝明登山口~ハト峰(羽鳥峰)~大瀞~根ノ平峠~朝明登山口(参考コースタイム:5時間)

かずき(読者レポーター)

かずき(読者レポーター)

転勤先の栃木で登山に出会い、現在は中部圏を中心に登山やキャンプに明け暮れている。ソロ〜3人程度で登るのが好き。長野県を通過した際は長野通行税をソフトクリーム屋さんへ入金している。

この記事に登場する山

滋賀県 三重県 /

羽鳥峰 標高 823m

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