中央アルプス越百山、南駒ヶ岳周遊。激走!コスモサーキット

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読者レポーターより登山レポをお届けします。かずきさんは中央アルプスの奥深さを感じられる越百山(こすもやま)、南駒ヶ岳(みなみこまがたけ)を巡る、通称「コスモサーキット」のショートコースへ。

文・写真=かずき


一昨年に木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ)、昨年に空木岳(うつぎだけ)へ登った私は、次の挑戦として中央アルプスの奥深く、越百山・南駒ヶ岳へ登ることとした。多くの峰を越えなければたどり着けないため「越百山」と名づけられたという三百名山。素敵な名前に惹かれていたのだった。

伊奈川ダムから入り越百山を含む中央アルプスを周遊するルートを通称「コスモサーキット」と呼ぶ。越百山、南駒ヶ岳、空木岳を通るのが“フルコース”ならば、越百山、南駒ヶ岳を回るのが“ショートコース”である。ショートといえど距離24km、初日に1400m登って翌日10時間ほど行動する大変なコースである。その分、中央アルプスの深みを感じることができた。

1日目:伊奈川ダム~越百小屋

通常は「伊奈川ダム上駐車場」からスタートとなるが、平成30年豪雨により道が崩落し現在も復旧工事中だ。伊奈川ダム下で通行止めのため、駐車場は使用不可、登山口までプラス約1時間かかる点は要注意である。

越百山登山口のゲート
ゲートからスタート

最初はダラダラと舗装路を歩く。上高地から横尾までの歩きを思い出した。しかも歩いているとやや強い雨が降り出し、いきなり心が落ち込んだ。

スタートから2時間弱歩いてようやく登山口に到着し、準備を整えて登り始めた。登山道に入ると雨は弱まり、ちょっと安心した。その後も森の中をひたすら登っていった。やや急な登り、穏やかな尾根、また登り・・・と繰り返すと、スタートから6時間後に越百小屋へ到着した。

越百小屋
越百小屋

越百小屋は小ぢんまりとしていたが、それ故に温かさを感じた。到着時は曇っていたが、段々雲が晴れてきて越百山、そして南駒ヶ岳がよく見えた。明日はこれを登るのか。長丁場になりそうだ。

奥が南駒ヶ岳、手前が越百山
奥が南駒ヶ岳、手前が越百山

小屋は食事提供をストップしているため自炊になる。自炊場所は時間指定で交代制だったが、晴れていたので今回は外で食べた。夕焼け時の山は雄大でうれしくなった。

安平路山方面の滝雲
南アルプスの南部、安平路山方面は終始滝雲が流れており良い景色だった

2日目:越百山~南駒ヶ岳

この日はコースタイム10時間程度の長時間が予想されたため、朝3時過ぎに起床し4時半に出発した。ほかの宿泊者も同じ行程だったが、この時には全組が出発しており私達が最後だった。この越百小屋から南駒ヶ岳、伊奈川ダムへの道中には小屋がなく、水場もないため、前日に水を1.5L買い足していた。1,500円要したが、背に腹は代えられない。

朝は気持ちよく晴れていた。1時間歩くと越百山山頂に着いた。一気に視界が開け、これから待ち受ける仙涯嶺(せんがいれい)、そして南駒ヶ岳が見通せた。

仙涯嶺、そして南駒ヶ岳を望む
仙涯嶺、そして南駒ヶ岳を望む

果てしなく続く稜線は間違いなくアルプスの眺望であり、木曽駒ヶ岳に行くだけでは味わえない壮大さを感じた。

しばらく景色を眺めてまずは仙涯嶺へ向かう。ここからの稜線歩きは大変だった。細い道には太くたくましいハイマツが茂っており、向う脛にダメージを受けた。そして一部は道がわかりづらかった。土嚢で補強された斜面を下った先に道がなかったり、矢印に導かれて踏み跡を進んだら道がなかったりした。後続もいたため、すぐ間違いに気付いて正しい道に戻ることができたが、人が少ないエリアなのでリスクが高いと感じた。

稜線を進む
稜線を進む

巨大な岩を巻いて進むと「仙涯嶺」と書かれた広場に着いた。巨岩を眺めながら休憩できるいいスポットだが、残念ながらこの時には一面のガスに覆われていた。休憩してさらに進む。

仙涯嶺
仙涯嶺

途中、仙涯嶺から下ったところにお花畑があった。チングルマなどが咲き乱れて気分がよかった。ガスでなければなおよかったのだが・・・。

仙涯嶺から下ったところのお花畑
お花畑の一部

ここからも引き続き、ハイマツを押しのけて細い稜線を進む。たまにザレザレの斜面もあり、足場確保に難儀した。総合力を試される山だと思った。この道を半袖半ズボンで駆け抜けるトレイルランナーは、鋼の脛を持っているのだろうか。

細い稜線
ハイマツをかき分けるように進む

地図上では、だんだんと南駒ヶ岳が近づいてきた。しかし一面のガスに覆われて先は見えない。このころにはほかのパーティーも着かず離れずの距離で歩いており、なんとなく仲間意識が生まれていたが、皆一様に暗い気持ちになっていた。

突然、雲が切れた。目の前が開けて、巨大な山の塊が現われた。南駒ヶ岳、こんなに大きいのか! 晴れた瞬間、サッカー日本代表が得点したかのような大歓声が沸いた。

南駒ヶ岳
雲が切れた瞬間

これを機にどんどん天気がよくなり、中央アルプスがその全容を現わした。裏から見る空木岳は非常にかっこよく、さらに木曽駒ヶ岳に向かってどっしりとした峰々が連なっている。

空木岳、木曽駒ヶ岳を見通す
空木岳、木曽駒ヶ岳を見通す

来た道を振り返ると、遠くに今朝出発した越百小屋が見える。仙涯嶺はとがった岩の塊で、間近で見たより迫力を感じた。正面には壁のような南アルプスとちょんと飛び出した富士山が見えた。

南駒ヶ岳山頂は思いがけず広く、昼食をとりながらしばらく景色を味わった。準備を整え、南駒ヶ岳山頂から伊奈川ダムへ下る道を進んだ。

南駒ヶ岳から下山
下山開始

ここからの道も大変だった。固いハイマツ、岩をよじ登りはい降りる登山道、ササや砂は滑りやすく、苦しみながらも16時前にゴールへ到着し、2000mを下り切った。終盤は熱中症気味だった。登山口に自転車を停めている人が数名おり、冴えているなと思った。

南駒ヶ岳からの険しく長い下り
険しく長い下り

伊奈川ダム上駐車場の閉鎖もありコースタイムが長くなっていて、かつ人があまり入っていないので、難易度は高い印象を受けた。特にコスモサーキットショートコースの後半(越百山~南駒ヶ岳~下山)は小屋も水場もないため、水分管理が重要になる。その分、静かな山歩きを楽しめるし、なにより長大な中央アルプスを一身に感じることができた。

魅力的な稜線
魅力的な稜線

木曽駒ヶ岳だけではない、中央アルプスの魅力が詰まったコースなので、ぜひ一度挑戦してみてほしい。

(山行日程=2024年7月20~21日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:1泊2日
コースタイム:【1日目】6時間50分
【2日目】10時間20分
行程:【1日目】伊奈川ダム下・・・伊奈川ダム上登山口・・・福栃橋・・・越百小屋
【2日目】越百小屋・・・越百山・・・仙涯嶺・・・南駒ヶ岳・・・北沢展望三角点・・・福栃橋・・・伊奈川ダム上登山口・・・伊奈川ダム下
総歩行距離:約22,100m
累積標高差:上り 約2,501m 下り 約2,509m
コース定数:64

関連リンク

かずき(読者レポーター)

かずき(読者レポーター)

転勤先の栃木で登山に出会い、現在は中部圏を中心に登山やキャンプに明け暮れている。ソロ〜3人程度で登るのが好き。長野県を通過した際は長野通行税をソフトクリーム屋さんへ入金している。

この記事に登場する山

長野県 / 木曽山脈

越百山 標高 2,614m

 中央アルプス北部と南部の境に位置し、上伊那郡飯島町と木曽郡大桑村の境にそびえる山。中央アルプスの縦走路もこの山を過ぎるとアルペン的な雰囲気は薄れ、ヤブ山に近くなっていくので、この山を縦走の終点として下山する人が多い。  稜線はハイマツに覆われ、なだらかな女性的な山容。南の南越百山まで下ると樹林帯となり、クマザサの縦走路と変わっていく。標高のわりには激しい北西風による積雪が東面に積もり、中小川ルートの越百小屋は幾度となく倒壊し、現在は木曽側の須原道に建て替えられている。  登山コースは伊那側に飯島口があり、山頂まで6時間。中小川の沢沿いのルートだから増水時は注意。木曽側は須原口で、約8時間30分で山頂に立てる。シラビソやコメツガの原生林の中を下る、中央アルプスらしい道。

長野県 / 木曽山脈

仙涯嶺 標高 2,734m

長野県 / 木曽山脈

南駒ヶ岳 標高 2,841m

 空木岳のすぐ南にあり、雄大で、どっしりとした山容が隠れた人気の山。中央アルプスの縦走は空木岳までの人が多いため、自分だけの静かな山を楽しみたい人にはお勧めの山。  すぐ南には仙涯嶺(2734m)がそびえ、宝剣岳に次ぐ岩場の山として人気がある。一方、すぐ北には赤梛(あかなぎ)岳(2798m)があり、伊那側に黒覆尾根が派生している。  この山の東面には中央アルプス最南のカール地形として知られる摺鉢窪(すりばちくぼ)がある。このカールには、春になると五人坊主の雪形が現れるが、里人たちはこれを農作業の目安としてきたという。カールの中に摺鉢窪避難小屋があり、お花畑と夜景が魅力。  登山コースは木曽側からは須原口(山頂まで10時間弱)、伊那側からは越百山経由の飯島口(9時間弱)があり、縦走の場合、空木岳から1時間30分で山頂に立てる。ルート上に営業小屋はなく、登るのは幕営登山者に限られる。

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