左右にバランスを崩さず歩くために必要な2軸歩行。 ――安全に、疲れずに歩くコツ

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身体のバランスをとるには、「前後」のバランスのみならず、「左右」にも注意を払う必要がある。今回は「1軸歩行・2軸歩行」の違いを確認し、左右バランスの大切さについて確認する。

 

前回では下山時の前後方向のバランスのとり方について解説しました。この記事に少し補足すると、登山道上では不整地を長時間に渡り歩き続けることになるので、下山時に限った話ではなく、登山とは「バランス保持をし続ける運動」であると言えます。

★前回記事:腰が引け、前屈み姿勢になる原因と対処法

バランスを保持するためには筋力を使っていますが、効率よくバランスを保持できる姿勢や体の使い方が出来ていることによって、筋力の負荷を最低限に留めることが出来ます。

また、こうしたコツを知っていることで、そもそもバランスを崩しにくくなるため、長時間安定して安全に歩き続けることが可能になります。

そして、今回解説する左右方向のバランスについても、上手くとれないと転倒や疲労の原因になりかねません。

 

「2軸歩行」―― 腰幅を保って足を踏み出す

左右方向へバランスを崩す状況は、登り下りだけではなく、平坦地でも起こり得ます。特に足場が不安定で、歩幅が大きくなる段差の多い場所では、左右にバランスを崩しやすくなります。中でも、最も大きなウエイトを占めているのは、足を踏み出す位置です。

下図のように、足を踏み出す際に左右の足の距離が近い方(1軸歩行)は、自分自身の足の位置よりも自分自身の上半身が外側にはみ出すことになり、左右にバランスを崩しやすい状態になります。

 


外側に崩れたバランスを保持するためには、上半身を内側に倒す必要があります。また、重心が左右にブレることで、前方へ推進するエネルギーのロスが生じてしまいます。以前から登山で「2軸歩行」が推奨されてきたのもこのためです。

2軸歩行は武術の身体操法に基づいて提唱され、いつの頃からか登山の歩行技術でも重要視されるようになりました。武術にしても登山にしても、常にバランスを崩さずに安定して動くことが必要になりますので、重要な下半身の使い方だと言えます。

2軸歩行が身についていると、足場の悪い岩場・ガレ場でも左右にフラつくことなく安定して歩くことが出来ます。またテント泊などで背負う荷物が重くなる場合や、バランスを崩しやすい雪道で、安定して歩くことに繋がります。このように、転倒や滑落の危険性のあるバランス保持の重要性が高い局面で、特に重要となる歩行技術です。

逆に1軸歩行では、足が滑ったりバランスを崩したりする心配のない平坦な舗装路を歩く分には問題はありませんが、前述のとおりバランスを崩しやすいため、デメリットが多すぎます。雪山でアイゼンを着用して歩く際にも、アイゼンを靴やスパッツなどにひっかけやすくなってしまいます。

 

片足立ちチェックテストでバランスの確認を!

バランスを保持できているかどうかを確認する方法に「片足立ちチェック」があります。全身が写る鏡の前に立って、両手を腰にあてて、10秒ほどの片足立ちを両方の足で行ってみて下さい。全身用の鏡がないという人は、スマートフォンで動画を撮影してチェックと良いでしょう。

どのような片足立ちの体勢になっているかをチェックすることで、自身の片足立ちの癖が分かります。立ち方の癖が分かることで、2軸歩行が上手く出来る、出来ない原因も分かってきます。

 

左・NG/支持脚の接地面よりも腰が外側にはみ出してしまう
右・Good/支持脚がほぼ直立している


上写真のように支持脚が斜めにならないかどうか、左右どちらの足の安定性が低いか、確認しましょう。

この支持脚が斜めになってしまう傾向がある人ほど、支持脚の接地面(緑の●)よりも腰が外側にはみ出していることになり、左右の足が近くに接地する「1軸歩行」になりやすくなります。ではなぜ、このような体の動きになってしまうのでしょうか?

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2軸歩行が上手く出来ない理由

原因は複数ありますが、体の動きは連動していますので全てが当てはまる方もいると思います。

  • 1.接地時に足裏の小指側(外側)に体重を乗せる癖がある = 親指側(内側)に体重を乗せるのが苦手
  • 2.下肢の外側の筋肉ばかり使う癖がある =内側の筋力が弱い
  • 3.殿筋群(お尻の筋肉)の筋力が弱く、上手く使えずに片足立ちをしている

例外もありますが、1軸歩行になる人は、足の外側(小指側)に体重をかける癖や、下肢の筋肉も外側ばかりを使う癖を持つ方が多い傾向があります。このため、靴底の外側ばかりすり減ったり、小指側で靴ずれが起こりやすかったり、膝も外側が痛んだりと、トラブルが脚の外側で起こりやすくなります。

また、日常生活でお尻の筋肉を使う機会が少ないので、お尻の筋力が弱いと片足立ちの際に腰が左右にブレやすくなります。

歩行の癖を自覚することは難しいですが、同じように歩いていても、1人1人で体重のかけ方、筋肉の使い方には違いがあります。

接地時の体重のかけ方の癖が強いと自覚している人や、靴底の減り方に内外で極端に差がある人は、足関節の動きに異常が見られる可能性もあります。体の動きに偏りがある場合は、関節痛などのトラブルが生じやすいので、必要に応じてスポーツ診療やリハビリを行っている整形外科や整骨院などに相談し、関節の可動域や柔軟性を改善出来るよう指導を受けることをオススメします。

特にトラブルが無い場合でも、バランス良く体を動かせるようにしておくことで効率よく身体を動かすことができます。

体の癖や弱点がトラブルに直結するのは、他のスポーツでも同じことですが、登山ではそれが時に生死に関わります。これまでの連載記事の中で、歩行技術の要点について解説をしてきましたが、最も重要なことは自分自身の歩行中の癖や弱点に気づけることだと考えています。

客観的に歩行技術のアドバイスが出来るガイドや指導者が増え、安定して山を歩くための知識・技術が普及して行くためにも、今後は指導者養成にも力を入れていきたいと考えています。

なお「山の歩き方講習会」を定期的に開催しています。詳しくはホームページをご覧ください。

 

プロフィール

野中径隆(のなか みちたか)

Nature Guide LIS代表。大学3年の夏に「登山の授業」で山の魅力に取りつかれ、以来、登山ガイドの道へ進む。「初心者の方が安心して登山できる」環境づくりを目標に積極的にWeb上で情報を発信するほか、テレビ出演、雑誌、ラジオなど各種メディアでも活躍中。
日本山岳ガイド協会・認定登山ガイド、かながわ山岳ガイド協会所属。
⇒ Nature Guide LISホームページ

理論がわかれば山の歩き方が変わる!

日頃、あまり客観視することのない「歩き方」。しかし山での身体のトラブルや疲労の多くは、歩き方の密接に結びついている。 あるき方を頭で理解して見つめ直せば、疲れにくい・トラブルを防ぐ歩行技術に近づいていく。本連載では、写真・動画と一緒に、歩き方を論理的に解説。

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