豪雪が創り出した絶景。残雪の飯豊連峰を2泊3日で縦走

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読者レポーターより連休の登山レポをお届けします。こうさんは飯豊(いいで)連峰を2泊3日で縦走。

文・写真=こう


春が訪れても、沢山の雪を蓄えている飯豊連峰。下界から仰ぎ見る飯豊は、白く輝いている。雪に覆われた飯豊の稜線を端から端まで歩いてみたいと思い、今回の山行に至った。

1日目:西俣尾根〜梅花皮小屋

上りは西俣尾根、下りは大日杉(だいにちすぎ)登山口へのルートを選択した。飯豊連峰をほぼすべて縦走できるコースだ。5月上旬、西俣(にしまた)尾根の登山口は、例年であればまだ緑が少ない時期だが、今年は暖冬による積雪量の減少や4月の急激な気温上昇の影響か、木々がすでに芽吹いていた。

西俣尾根は現在廃道のため、積雪期限定ルートとして使われている。この雪の少なさで通れるか不安になったが、思ったよりも道は明瞭だった。飯豊連峰の登山道はいずれも急登だが、西俣尾根も例外ではなく、登山口からいきなり急登が始まる。途中にツツジやイワウチワなど可憐な花々が咲いており癒された。

飯豊連峰・西俣尾根 これから本格的に咲く時期を迎えそうなツツジ
これから本格的に咲く時期を迎えそうなツツジ

西俣ノ峰に着くと、飯豊連峰の展望が広がる。例年であれば残雪の上を歩けるのだが、暖冬少雪の今年は、状況を見極めながらヤブに隠れた夏道と残雪を交互に歩いた。夏道には所々ピンクテープがあるため、見逃さないように目を凝らしながら進んだ。

三匹穴という開けた斜面に出ると、ヤブに隠れた夏道を追うのが難しくなるため、地図と照らし合わせながら正しいルートを取る。

頼母木平(たもぎだいら)からヤブをこぎ、やっとの思いで稜線へとたどり着いた。稜線は風が強く、日が射していても肌寒く感じた。装備を整え、地神山(じがみやま)へと向かう。

飯豊連峰 頼母木山から地神山への登山道
頼母木山から地神山への登山道

飯豊連峰の稜線上には迫力のある山々が立ち並んでおり、見応え充分な反面、実際に歩くとアップダウンが激しい。初日の目的地である梅花皮(かいらぎ)小屋に向かうまでに、頼母木山、地神山、扇ノ地神(おうぎのじがみ)、胎内山(たいないやま)、門内岳(もんないだけ)、北股岳(きたまただけ)という6つの山を越えなければならない。

飯豊連峰の主稜線上にある門内小屋と北股岳
飯豊連峰の主稜線上にある門内小屋と北股岳

門内岳から北股岳にかけて、左右非対称の稜線が続く。西側は緩やかな斜面になっているが、東側は切れ落ちて断崖絶壁だ。豪雪地帯の飯豊において、風下である東側斜面は雪に削られ雪食地形となる。

北股岳手前以外に急登はなく、それでいて景色がいいため、気持ちのよい稜線歩きが楽しめる。北股岳まで登ると、それまで陰に隠れていた大日岳(だいにちだけ)が姿を現わす。

飯豊連峰 北股岳に続く左右非対称の稜線
北股岳に続く左右非対称の稜線
飯豊連峰 谷を隔てて見る大日岳
谷を隔てて見る大日岳は迫力満点だ

2日目:梅花皮小屋〜大日岳〜本山小屋

梅花皮小屋から梅花皮岳へ登り、緩やかなアップダウンを経て、烏帽子岳(えぼしだけ)へと着いた。烏帽子岳の山頂からは、飯豊連峰の主峰である飯豊本山(いいでほんざん)から飯豊連峰最高峰の大日岳まで一望することができ、飯豊連峰の広大さが感じられる。

飯豊連峰 烏帽子岳山頂より飯豊本山、大日岳を臨む
烏帽子岳山頂より飯豊本山、大日岳を臨む

ここから飯豊本山と大日岳の間にある御西(おにし)小屋をめざして歩き出す。夏道はまだ雪に隠れているため、雪の上を進んだ。緩やかな稜線だが、西側のササヤブで風がさえぎられ暑さで体力を消耗した。御西小屋が近づくにつれて、傾斜も徐々にきつくなる。御手洗(みたらし)ノ池付近より再び夏道が現われ、天狗の庭の先には岩のナイフエッジが待ち受けている。天狗岳直下で夏道が途切れたので再び雪の上に移動する。所々クラックが入っているため、安全な足場を見極めながら御西小屋へと向かった。

飯豊連峰 御西小屋への稜線と大日岳
御西小屋への稜線と大日岳
壁のようにそびえる飯豊本山
壁のようにそびえる飯豊本山

御西小屋に着いたら、荷物をデポして、大日岳をめざした。傾斜が緩やかであり、大日岳手前の急登まではつぼ足で行くことが可能だ。急登が始まる直前でアイゼン、ピッケルを装着した。一番傾斜のきついところはクラストしており、アイゼンの前爪がなかなか刺さらなかった。その箇所以外は雪がもろく、局所的に崩れるので、アイゼン、ピッケルを駆使しながら安全に歩く。

大日岳からの眺望はよく、どの方面に目をやっても絶景だが、特に飯豊本山側の斜面のゼブラ模様が抜群だ。

稜線の先にそびえる大日岳
稜線の先にそびえる大日岳
残雪が美しい飯豊本山
残雪が美しい飯豊本山

御西小屋に戻って荷物を整え、飯豊本山へと向かう。多少の傾斜はあるが比較的平坦な道が多く、あまり体力を使わずに歩くことができる。草月平(そうげつだいら)まで来ると、駒形山(こまがたやま)が目前だ。稜線上にいることを忘れさせるほど広大な平原で、そののどかな景色に癒された。

飯豊連峰 草月平から駒形山を臨む
草月平から駒形山を臨む

駒形山、飯豊本山の直下はやや急な登りになるが、それ以外はなだらかに標高を上げる。飯豊本山から大日岳に目を向けると、歩いてきた稜線を一望できる。

本山から小屋までは15分程度で着く。ハイマツと花崗岩の稜線になり、まるで日本アルプスにいるかのような錯覚に陥る。飯豊連峰は、東北らしい優しい雰囲気とアルプスのような魅力を兼ね備えた山域だと、あらためて感じた。

飯豊連峰 駒形山から見た大日岳
駒形山から見た大日岳
飯豊連峰 本山小屋の手前の花崗岩が美しい
本山小屋の手前の花崗岩が美しい

3日目:本山小屋〜大日杉登山口

本山小屋からは、切合小屋を経て大日杉登山口へと下る。本山小屋から御前坂を下ると、御秘所(おひしょ)という岩場が現われる。両側が切れ落ちているため、鎖を頼りつつ慎重に降りる。

その後の草履塚(ぞうりづか)への登り返しはなかなかの急登だ。登り切って振り返ると、飯豊本山から大日岳までの稜線が綺麗に見える。切合(きりあわせ)小屋までの夏道は雪に隠れていたため、雪の斜面を下った。夏道よりも下りやすく、順調に進むことができた。

飯豊連峰 御秘所を通過する場面
御秘所を通過する場面
飯豊連峰 草履塚から切合小屋に向かう斜面
草履塚から切合小屋に向かう斜面

切合小屋から少し過ぎた所に分岐があり、左手が大日杉方面になるが、雪があるとトラバースは危険なため、一度右手の川入方面に進み、少し標高を上げたところから、雪道を下った。

飯豊連峰 大日杉登山口への分岐を高巻き
大日杉登山口への分岐を高巻き

その先は夏道と雪道を交互に歩いた。雪の状況次第ではヤブこぎも必要になるため、判断力が試された。また、地蔵岳までは、何度もアップダウンがある上に風が入りづらく蒸し暑いため疲弊する。この辺りからブヨが増えてくるので虫対策も行なった。

地蔵岳から下った後に一度登り返しがあるが、それ以降はひたすら下る。最後にざんげ坂という長い鎖場がある。疲労がピークに達しているころだと思われるため、集中して通過する。その先もやや急な下りが続くが次第に緩やかになり、杉林の先に大日杉小屋が見えると、長かった飯豊縦走が終わりを告げた。

(山行日程=2024年5月3~5日)

飯豊連峰 ざんげ坂から登山口までは300mほど下る
ざんげ坂から登山口までは300mほど下る

MAP&DATA

ヤマタイムで周辺の地図を見る

コース

【1日目】西俣ノ峰登山口~梅花皮小屋(参考コースタイム:9時間10分)
【2日目】梅花皮小屋〜大日岳〜本山小屋(参考コースタイム:9時間40分)
【3日目】本山小屋〜大日杉登山口(参考コースタイム:6時間15分)
※ヤマタイムの夏山コースタイムをベースにしたものです。積雪状況によって異なります

アドバイス

登山口の梅花皮荘には、小国駅よりバスが出ているが本数が少ない。下山口の大日杉からはタクシーで移動する。バスなど公共交通機関を使用したい場合は、大日杉ではなく弥平四郎に下り、デマンドバスを使うとよい。

こう(読者レポーター)

こう(読者レポーター)

山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。

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全国の山と溪谷オンライン読者から選ばれた山好きのレポーター。各地の登山レポやギアレビューを紹介中。

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