【書評】避難小屋シリーズ第2弾『帰ってきた避難小屋』

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評者=武石浩明

山と酒を愛する橋尾歌子の「避難小屋」シリーズが全国にフィールドを広げ、書籍となり帰ってきた。

避難小屋は地域により大きく事情が異なる。橋尾は色鮮やかなイラストの中に、細かい文字で小屋の注意書きも再現し、事情をさりげなく説明する。避難小屋の間取りや成り立ちについても興味深い。

最大の魅力は、個性豊かな山仲間たちとの、避難小屋にたどり着く前後の珍道中にある。登山家の山野井泰史・妙子夫妻と危なげな沢を登ったり、ナキウサギや高山植物に囲まれながら歩いたり。透明水彩と色鉛筆で描かれたイラストは、1話につき制作に10日間前後かかるという。描き起こすことで、山仲間たちと過ごした楽しい時間が再現できる……その作業は、橋尾にとって特別な思いが込められていたに違いない。

実は、本書に登場する山仲間のうち3人はこの世にいない。国際山岳ガイドの篠原達郎と石谷さん母子の3人は2022年4月、南伊豆の岩場から海に転落、遺体で見つかった。特に篠原は、月の大半をともにする、かけがえのない山のパートナーだった。事故の4カ月後、橋尾は避難小屋を巡るきっかけとなった秋田県の小屋に向かった。この本を作ることは、橋尾にとって“再生の旅”だったのかもしれない。深い喪失感を乗り越え、橋尾は“帰ってきた”。

帰ってきた避難小屋

帰ってきた避難小屋

橋尾歌子
発行 山と溪谷社
価格 1,760円(税込)
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評者

武石浩明

ジャーナリスト、映画監督。監督作品に『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界』がある。

山と溪谷2024年6月号より転載)

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山と溪谷編集部

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