序章 SEA TO SUMMITが俺の登り方|「海から七大陸最高峰に登頂」をめざした理由
今、一人の日本人冒険家がある挑戦を行なっている。プロジェクト名は「SEA TO SEVEN SUMMITS(シー・トゥ・セブン・サミッツ)」。七大陸最高峰を海から頂上まで人力で登頂するという挑戦だ。2018年にオーストラリア大陸最高峰のコジオスコから始まったこのプロジェクトは、2023年に5つ目の頂であるデナリを登り、世界最高峰・エベレスト、南極大陸最高峰・ヴィンソン・マシフの2座を残すのみ。そんな挑戦を続ける冒険家・吉田智輝のSEA TO SEVEN SUMMITSへの旅路をたどる。
文・写真=吉田智輝
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七大陸最高峰=セブン・サミッツ
私はアラスカの大地を駆けていた。
視線の先にはグリズリーが歩いていた。
私がアラスカで挑んでいたのは「デナリ」という山だった。植村直己の功績も手伝って、日本では「マッキンリー」という名前でも知られる。
標高6190m。登頂率50%以下。デナリは数々の栄光の舞台でもあり、同時に、登山者たちをはね返す険しい山としても知られている。高緯度にそびえる高峰ということから、夏でも気温が低く、気圧も低いため高山病のリスクも高い。さらには、時折吹きおろす強烈な風、所々に口をあけるクレバス(氷河の裂け目)などのさまざまな要素が、この山の登頂を難しいものとしている。
デナリが多くの登山者たちを惹きつける理由の一つとして、この山が北米大陸の最高峰であることが挙げられる。七大陸最高峰、いわゆる「セブン・サミッツ」の一角をなす山である。
「セブン・サミッツ」とは、世界の七つの大陸における、それぞれの最も高い山の総称のこと。
北米大陸のデナリ(6190m)に加え、有名なところで言えば、アフリカ大陸のキリマンジャロ(5895m)もセブンサミッツの一つ。もちろん世界最高峰のエベレスト(8848m)も、アジア亜大陸の最高峰としてその名を連ねている。そして、オーストラリア大陸のコジオスコ(2228m)、ヨーロッパ亜大陸のエルブルース(5642m)、南米大陸のアコンカグア(6962m)、南極大陸のヴィンソン・マシフ(4892m)を加えた7つの山々の総称がセブンサミッツだ。
日本では、田部井淳子さんが女性として世界で初めての七大陸最高峰登頂に成功している。そして、野口健さんが当時の世界最年少登頂記録を日本人として初めて更新。さらには、南谷真鈴さんが19歳という若さで日本人最年少記録登頂を達成した。当然のことながら、彼らもその挑戦の過程で、デナリへの登頂を果たしている。
では、名だたる登山家たちも、北米大陸最高峰のこの山に挑戦するとき、グリズリーとの戦いを覚悟しなければならなかったのだろうか―。
答えは「ノー」。
私がグリズリーに遭遇したのは、ある特殊な事情のせいだった。
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プロフィール
吉田智輝(よしだ・さとき)
1990年生まれ、埼玉県鴻巣市出身。早稲田大学卒業後、シンガポールの外資系投資銀行に勤務。2018年9月から“海から七大陸最高峰に登る「SEA TO SEVEN SUMMITS」”の挑戦を始める。現在は長野県信濃町で登山ガイドなどを行ないながら生計を立て、残り2座(エベレスト、ヴィンソン・マシフ)の海からの登頂をめざす。
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