「リーダーにおまかせ」や「ツアーガイドがいるから」という考えは大変危険です 島崎三歩の「山岳通信」 第351号

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長野県内で起きた山岳遭難事例について配信している「島崎三歩の山岳通信」。第351号では、パーティ登山やツアー登山でも遭難事故が発生していることや、忠告を聞き入れずに登山を続行して行動不能になった事例に言及。自分自身の体力や技術を把握し、判断するよう呼びかけている。

7月24日に配信された『島崎三歩の「山岳通信」』第351号では、期間中に起きた16件の山岳遭難事例について説明。以下に抜粋・掲載する。

  • 7月16日(火)、北アルプスの槍ヶ岳で、単独で入山した82歳の男性が、槍ヶ岳から上高地に向けて下山中、疲労により行動不能となった。

  • 7月16日(火)、南佐久郡南相木村の御陵山で、18人パーティで入山した66歳の男性が、御陵山から下山中に発病し、死亡した。

  • 7月16日(火)、松本市入山辺地籍の山林で、単独で入山した33歳の男性が、きのこ採り中に滑落し、死亡した。

  • 7月16日(火)、北アルプスの白馬岳で、単独で入山した74歳の男性が、白馬岳から下山中、道に迷い行動不能となった。

  • 7月17日(水)、北アルプスの白馬岳で、2人パーティで入山した65歳の男性が、山小屋に向けて登山中、疲労により行動不能となった。

  • 7月18日(木)、北アルプスの前穂高岳で、9人パーティで入山した60歳の女性が、前穂高岳から下山中に岩場でスリップして滑落、負傷した。

  • 7月19日(金)、南アルプスの塩見岳で、4人パーティで入山した67歳の女性が、塩見岳を登山中に転倒、負傷した。

塩見岳での遭難現場/長野県警察本部ホームページ
山岳遭難発生状況(週報)7月23日付
  • 7月19日(金)、大町市常盤地籍乳川谷付近の山中で、2人パーティで入山した75歳の男性が、下山中に道に迷い行動不能となった。

  • 7月20日(土)、北アルプスの前穂高岳で、20人パーティで入山した65歳の男性が、前穂高岳から下山中に滑落、負傷した。

前穂高岳での遭難現場/長野県警察本部ホームページ
山岳遭難発生状況(週報)7月23日付
  • 7月20日(土)、北アルプスの杓子岳で、3人パーティで入山した65歳の男性が、山小屋に向けて登山中、疲労により行動不能となった。

  • 7月21日(日)、北アルプスの槍ヶ岳で、何らかの原因により行動不能となった遭難者を北鎌尾根独標付近で確認した。(※7月23日時点)

  • 7月21日(日)、北アルプスの白馬鑓ヶ岳で、3人パーティで入山した67歳の男性が、白馬鑓ヶ岳から下山中に滑落、負傷した。

  • 7月21日(日)、南佐久郡川上村の小川山で、6人パーティで入山した65歳の女性が、クライミング中に転落、負傷した。

小川山での遭難現場/長野県警察本部ホームページ
山岳遭難発生状況(週報)7月23日付
  • 7月21日(日)、戸隠連峰の高妻山で、単独で入山した63歳の男性が、高妻山から下山中、疲労により行動不能となった。

  • 7月21日(日)、八ヶ岳の蓼科山で、49人パーティで入山した71歳の女性が、蓼科山から下山中、疲労により行動不能となった。

蓼科山での遭難現場/長野県警察本部ホームページ
山岳遭難発生状況(週報)7月23日付
  • 7月21日(日)、北アルプスの唐松岳で、2人パーティで入山した60歳の女性が、五竜岳に向けて縦走中に転倒、負傷した。

 

長野県警山岳安全対策課からのワンポイントアドバイス

先週、県内では、16件の山岳遭難が発生しました。

発生した16件のうち、登山を目的とした山岳遭難は15件でしたが、遭難者の平均年齢は67.5歳です(不明の1件を除く)。パーティ構成別では、単独だけでなく、パーティ登山やツアー登山でも発生していますので、「リーダーにおまかせ」や「ツアーガイドがいるから」という考えは大変危険です。自分自身の体力や技術を把握し、「その山に登っても大丈夫なのか」を判断をしましょう。

また、16日に槍ヶ岳(グレーディング8C)で発生した山岳遭難は、疲労のため歩くことが困難となり、救助隊員に背負われて救助されていますが、この遭難者は、13日に上高地から入山し、槍ヶ岳に至るまでの間、複数の山小屋の従業員から「登山をやめた方がいい」と言われるほど軽装の上、当日も悪天候だったようですが、忠告を聞き入れずに登山を続行、結果として行動不能となっています。

みなさんにお願いです

私たち山岳遭難救助隊員は、長野県の山に来て頂いた方全員に「安全に楽しんでほしい」、「無事に下山してまた長野県の山に来てほしい」と願っています。山小屋従業員の皆さんも同じ気持ちだと思います。しかし一方で、登山は時に命を落としてしまうリスクがあります。登山口やパトロール中には、登山者のみなさんにその危険性が伝わるように分かりやすく説明、説得を心掛けていますが、時には耳の痛いことをお話するかもしれません。「下山した方がいい」、「ルートを変えた方がいい」、「入山しない方がいい」と言われても“せっかく来たのに”と思うかもしれません。ですが命は1つです。どうか、私たちのアドバイスを受け入れる余裕を持って山に来てください。入山前に正しい情報を入手して準備してください。

 

TOPICS

■焼岳の登山について(火山活動に関する情報)

焼岳では、山頂付近を震源とする火山性地震の回数が減少していることから、噴火警戒レベルを引き上げる可能性は低くなっています。このため、気象庁は令和6年7月17日、一連の火山の状況に関する解説情報(臨時)の発表を終了しました。
現在の噴火警戒レベルは1「活火山であることに留意」です。

■“はじめての夏山登山” 、“岩場での歩き方” YouTube動画を公開中!

登山初心者の遭難が増えています。動画では、初心者が安全登山を実践するうえで重要なポイントを説明しています。また、遭難の多い岩稜地帯での対処法についても、「岩場での歩き方(岩場に適した服装)」「岩場での歩き方(登り方)」「岩場での歩き方(下り方)」に分けて、詳しく解説しています。計画の前にぜひ活用してください(長野県山岳総合センターと共同で制作)。
⇒ 動画はこちら

■今年の“Safety Book夏山編”が完成しました

槍穂高連峰、後立山連峰、八ヶ岳連峰、南アルプス、中央アルプス、御嶽山など各山域の最新情報を盛り込んだ登山者必見の資料です。安全登山の参考にご活用ください。
⇒ Safety Book夏山編

■主要山域の登山口に“登山相談所”が開設されます

各山域の主要登山口に「登山相談所」が開設されます。遭対協の隊員らが登山者の相談に応じたり、積極的な声掛けを行ったりします。
⇒ 登山相談所 開設情報

■“日本百名山グレーディング”を更新しました

グレーディングを公表している10県2山域からルートを抜粋、日本百名山の登山ルートグレーディングを作成しました。日本百名山のうち、68山、210ルートをグレーディング評価しています。
⇒ 信州 山のグレーディング

■本格的な夏山シーズンを前に各山域の最新の情報をHPなどで確認してください

◎中央アルプス駒ヶ岳ロープウェイは7月20日(土)に運行を再開しました。 
https://www.chuo-alps.com/

◎白馬大雪渓は崩落の危険があるため、7月4日(木)から通行止めが続いています。 
https://www.vill.hakuba.nagano.jp/news/2698/

■“ガチなが”  信州の山小屋応援・山岳遭難防止対策プロジェクト2024募集開始

山小屋は、安全安心な登山環境の維持、登山者の憩いの場づくりに努めています。長野県遭対協は、登山者の安全を見守り、遭難者の救助活動にも尽力しています。信州の山岳を守るため、温かいご支援をお願いします。 
⇒共創型ふるさと納税受付サイト「ガチなが」

プロフィール

島崎三歩の「山岳通信」

信州の山岳遭難現場と全国の登山者をつなぐために発行。「登山用品店舗スタッフ」「登山情報サイトを利用する登山者」「長野県内の各地区山岳遭難防止対策協会」などに対して、長野県の山岳地域で発生した遭難事例を原則・1週間ごとに、「安全登山」のための情報提供をしている。

⇒バックナンバーはコチラ!

島崎三歩の「山岳通信」

長野県では、県内の山岳地域で発生した遭難事例をお伝えする「島崎三歩の山岳通信」を週刊で配信。その内容をダイジェストで紹介する。

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