富士登山、なにを着る? なにを持っていく? 登山ガイドが教えます

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富士登山に必要なウェアや道具について、登山ガイドが解説する。

文=吉澤英晃、写真=中村英史

保温着として冬山用のジャケットが必要?

夏山向きの軽量なウェアで充分です

富士山に登るウェア・ギア

保温着はダウンや化繊綿が寒さを防ぐ層になり体温低下を防ぐ。ミッドレイヤーと違い、休憩中など主に行動していないときに着る。富士山山頂の平均気温が東京や大阪の12月と変わらないことを考えると、冬用のボリュームがある保温着が必要と思うかもしれないが、基本的には夏山向きの軽量モデルで充分。足りない保温性はミッドレイヤーやアウターレイヤーで補える。かつてはフリースも保温着に選ばれていたが、保温性が高いものはかさばり重たくなるので、今はダウンか化繊綿を封入したものが一般的。フードの有り無しはミッドレイヤーとの兼ね合いで検討しよう。

夏山向きのダウンジャケットは小さく収納できる。化繊綿タイプも最近は小型・軽量化が進んでいる。大きなバックパックがいらなくなるので、全体の軽量化にもつながる。

富士山に登るウェア・ギア

これから用意するのであれば、汗で濡れても保温性が著しく低下しない化繊綿タイプを検討してもいいだろう。本来の保温性を維持しながら着たまま行動することもできる。

アウターレイヤーは登山用ならどれを選んでもいい?

生地が丈夫なものがベター

富士山に登るウェア・ギア

アウターレイヤーは雨や霧で衣服を濡らさないために、いちばん上に羽織る。防風性もあり風による体温低下も防げる。透湿性があるものを選ぶ。アウターレイヤーには必ず防水透湿性がある上下セパレートのレインウェアを選ぶこと。登山用のモデルなら、基本、この条件をクリアしている。透湿性がないビニールガッパを着ると、内側に生じる湿気でウェアが濡れてしまう。最近は薄手の生地を使う軽量モデルも増えてきたが、耐久性にやや難がある。長く使い続けることを考えると、生地にそこそこの厚みがある、丈夫なものを選んだほうがいいだろう。

雨を防ぐウェアのなかには「ポンチョ」と呼ばれる上からかぶるだけのアイテムもあるが、足元からも雨や風が吹き込むことが考えられるのでなるべく避けたほうがいい。

軽量化を意識したモデルにはファスナーで正面が完全に開かないアノラックタイプも存在するが、着脱のしやすさを考えると、ジャケットタイプのほうが使い勝手に優れる。

ロングパンツが無難ですか?

ジップオフタイプがイチオシです

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パンツは生地に速乾性があり、ストレッチ性の高いものをチョイス。寒い夜間に行動するときは、パンツの下にタイツをはく。日中、汗ばむ気温のなかで行動することを考えると、ショートパンツにもなるジップオフタイプを選んだほうが体温を調節しやすい。ただし、ショートパンツだけだと下にタイツをはいても寒い場合があるので注意すること。2日目、頂上で御来光を見るときはロングパンツの下にタイツをはいて出発する。雪山登山に選ばれるような生地の厚いタイツは必要なく、薄手か中厚手で充分。寒ければアウターレイヤーのパンツを重ねる。

コットンが含まれているジーンズやチノパンなどは適さない。ベースレイヤーと同様に、汗で濡れて重くなるばかりか、乾きにくいので低体温症の原因となってしまう。

頂上直下には大きな段差を越える箇所が現われるので、ひざを曲げ伸ばししやすいストレッチ性があるモデルを選んだほうがいい。試着するときは伸縮性をチェックしよう。

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この記事に登場する山

山梨県 静岡県 / 富士山とその周辺

富士山・剣ヶ峰 標高 3,776m

 日本の山岳中、群を抜いた高さを誇る富士山は、典型的なコニーデ式火山。いずれの方向から眺めても円錐形の均整のとれた姿は美しく、年間を通して人々の目を楽しませてくれる。東海道本線や新幹線の車窓から見ると、右手に宝永山、左手には荒々しい剣ガ峰大沢が望め、初めて見る人の心を奪う。  昔は白装束姿で富士宮の浅間(せんげん)神社から、3日も4日もかけて歩き通したという話を古老から聞いたことがある。現在では、富士宮と御殿場を富士山スカイラインが結び、途中からさらに標高2400m辺りまで支線が延びているので、労せずして雲上の人になれる手近な山となった。  日本で一番高い山、美しい山であれば、一生に一度は登ってみたい願望は誰にでもある。7月、8月の2カ月間が富士登山の時期に当たり、7月1日をお山開き、8月31日を山じまいと呼ぶ。  山小屋や石室が営業を始めると、日本各地や外国の人々も3776mの山頂を目指して集まってくる。特に学校が夏休みに入り、梅雨が明けたころから8月の旧盆までは、老若男女が連日押し寄せ、お山は満員となり、登山道は渋滞し、山小屋からは人があふれる。  富士宮口から登ろうとする場合は東海道新幹線の新富士駅、三島駅などからの登山バスで五合目まで行き、自分の足で山頂へ向けて歩きだすことになる。山梨県側には吉田口があり、東京方面からの登山者が多い。  目の前にそびえる富士山はすぐそこに見えるため、山の未経験者は始めからスピードを出しすぎ、7合目か8合目付近でたいていバテてしまう。登り一辺倒の富士山は始めから最後まで、ゆっくり過ぎるほどのペースで歩くことがコツである。新6合から宝永火口へ行く巻き道が御中道コースで、標高2300mから2500mを上下しながら富士山の中腹を1周することができたが、剣ガ峰大沢の崩壊で通行不能になっている。  山慣れたパーティならば新6合から左に入り、赤ペンキや踏み跡を拾いながら、いくつもの沢を渡り3時間もかければ大沢まで行くことができる。辺りは樹林帯で、シャクナゲの群落やクルマユリやシオガマなどの高山植物が咲く。  9合目右側の深い沢に残る万年雪は、山麓からも見ることができる。富士宮口を登りつめると正面に浅間神社奥ノ院がある。隣は郵便局。もうひとふんばりすると、最高地点の剣ヶ峰。山頂にはかつては毎日データを送り続けていた気象観測所跡が残っている。天候に恵まれたならば噴火口の周囲を歩く御鉢巡りが楽しめる。

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