距離・標高差とも群を抜くロングルート 御殿場ルートの歩き方

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

富士山頂をめざす主要の4大ルートのなかで最も長大なのが御殿場ルートだ。本ルートの特徴と歩き方のプランを紹介する。

文=佐々木享・山と溪谷オンライン編集部、写真=佐々木享、PIXTA

目次

標高差2336mを登る
富士山屈指のロングルート

御殿場(ごてんば)ルートは標高1440mの新五合目からスタートする。富士山山頂との標高差は2336m、お鉢めぐりを加えた往復ルート距離は20.8km。富士山の主要の4大ルートでは群を抜くスケールの登山道だ。現在の御殿場口新五合目から、新五合五勺を経て六合目へは、目標物の少ない砂礫の山腹が広がり、根気強さを試されるような登りが続く。過酷な登りとは対照的に、下山道の大砂走りでは、砂の斜面を滑降するような感覚で駆け下る。この豪快な体験は、長い登りを克服したご褒美のようだ。

ロングルートだけに体力はもとより、的確な経験や装備が求められる。一方で、混雑することがほとんどなく、マイペースで歩ける。ほかのルートに比べて営業山小屋の数が少ないので、事前の準備をしっかりしておこう。

御殿場ルートコースデータ

  • 合計コースタイム:約14時間5分(登り8時間15分、お鉢めぐり1時間20分、下り4時間30分)
  • コース距離:20.8km
  • 標高差:2336m

POINT

  • 富士山の雄大さを体感、登山経験者向きのロングルート
  • シーズンを通して混雑することが少なく、マイペースで歩ける
  • ハイライトは下山道の「大砂走り」、豪快な下りを堪能
  • 登山口の新五合目までマイカーでアクセスできる

ヤマタイムで周辺の地図を見る
富士山 御殿場ルート

4大ルートで最も低い位置からスタート

新五合目は、旧二合目にあたり、4大ルートで最も低い位置からスタートする。長い行程に備え、まずは天候をはじめ自分と同行者の体調をよく判断しよう。すぐ先の大石茶屋(おおいしちゃや)からは、下山道と並行して、砂の道をごく緩やかに登っていく。日陰がないので、紫外線対策が重要となる。

進行方向左側に見える二ツ塚(ふたつづか)の上塚の高さまで登ると、新五合五勺に着く。ここで下山道とクロスし、砂礫の広大な斜面をひたすらジグザグに登っていく。定期的な休憩やこまめな水分補給を心掛け、コンディションに気を配って登っていこう。

富士山 御殿場ルート
新五合五勺から、砂礫な広大な斜面の登りとなる

長らく休業していた新六合目の山小屋が近年、半蔵坊(はんぞうぼう)という名で営業を再開。御殿場ルートの貴重な拠点が増えた。ロングルートの貴重な拠点のひとつとなる。前後は、ザクザクともぐる砂の斜面が続く。少しでも踏み固められた場所を選んで歩こう。

根気強さを試されるような登りが続き、次は宝永山の高さを越えると六合目に着く。ここで宝永山(ほうえいさん)側から横切ってくる道と合流する。かつての御中道の一部で、現在はプリンスルートに利用されており、宝永山を経て富士宮ルートに辿り着く。

六合目からは、植物のオンタデが生育し、緑のある斜面を登っていく。大砂走りへの下山道分岐を過ぎると、七合目に達する。もうひと登りすると2軒の山小屋がある七合五勺に着く。夕方近くは雲海に映る影富士をよく見られる。

富士山 御殿場ルート
六合目からオンダテという植物が目立つようになる

七合五勺から、赤味を帯びた砂礫や溶岩の斜面を登ると、七合目最上部の山小屋が立つ七合九勺に着く。この先、山小屋の残がいがある平坦地に出たところが八合目となる。

八合目を出ると、傾斜がぐっと強まる。途中、ランドマークがないため、御殿場ルートは八合目の次が頂上となる。やや長い区間だが、混雑することはほとんどないので、マイペースに徹して登っていこう。荒々しい岩壁の下を横切り、鳥居をくぐると御殿場口頂上に登り着く。

富士山 御殿場ルート
八合目から先は傾斜が強まる。頂上までもう一踏ん張りだ

御殿場ルートの醍醐味・大砂走り

御殿場ルートの下山は、七合目まで登ってきた道を戻る。しばらく急斜面で、地面には不安定な岩石も目立つ。転倒や落石に注意して下っていこう。七合目に下り立ったら、大砂走りに備え、スパッツやマスク、サングラスで砂ぼこり対策を。

七合目のすぐ先で下山道へ直進し、走り(下り)六合まで下ると、宝永山へ向かう道が分岐する。ここから宝永火口経由で富士宮口五合目に下山することもできる。走り六合を過ぎると、いよいよクライマックスの大砂走りとなる。

大砂走りでは、砂の斜面を一気に下る。前のめりの姿勢にならないよう体を起こし、靴のつま先を上げて、靴底で砂を前に押し出すように踏み込む。こうするとバランスを保ちやすく、スピードもセーブできる。視界不良時はルート沿いに並ぶ支柱やロープを目印にして下っていこう。新五合五勺で登りルートと合流、1時間ほどで登山口に下山できる。

富士山 御殿場ルート
大砂走りではスピードが出過ぎないようにしよう

御殿場ルートの登山プラン

小屋で御来光を眺めるプラン

1日目 10時 登山口を出発
17時 七合五勺の山小屋に到着、宿泊
2日目 4〜5時 御来光を眺めた後、登山開始
8時 お鉢めぐり&登頂
15時 下山

最もスタンダードなプラン。御来光を頂上で眺めることに強いこだわりがないのであれば、本プランをおすすめする。

頂上部で御来光を眺めるプラン

1日目 10時 登山口を出発
18時 七合九勺の山小屋に到着、仮眠
2日目 2時 登山開始
4〜5時 お鉢に到着、御来光を眺めた後、お鉢めぐり&登頂
12時 下山

頂上部で御来光を眺めたい人向けのプラン。早朝からの行動となるので、体力・気力のある人向けだ。

新六合目の小屋宿泊で登るプラン

1日目 12時 登山開始
16時 新六合目の山小屋に到着、宿泊
2日目 3時 登山開始
9時 お鉢めぐり&登頂
16時 下山

新六合目で宿泊するプラン。2日目の行程が少し長くなるが、初日の入りが少し遅い場合なら本プランをおすすめする。

目次

この記事に登場する山

山梨県 静岡県 / 富士山とその周辺

富士山・剣ヶ峰 標高 3,776m

 日本の山岳中、群を抜いた高さを誇る富士山は、典型的なコニーデ式火山。いずれの方向から眺めても円錐形の均整のとれた姿は美しく、年間を通して人々の目を楽しませてくれる。東海道本線や新幹線の車窓から見ると、右手に宝永山、左手には荒々しい剣ガ峰大沢が望め、初めて見る人の心を奪う。  昔は白装束姿で富士宮の浅間(せんげん)神社から、3日も4日もかけて歩き通したという話を古老から聞いたことがある。現在では、富士宮と御殿場を富士山スカイラインが結び、途中からさらに標高2400m辺りまで支線が延びているので、労せずして雲上の人になれる手近な山となった。  日本で一番高い山、美しい山であれば、一生に一度は登ってみたい願望は誰にでもある。7月、8月の2カ月間が富士登山の時期に当たり、7月1日をお山開き、8月31日を山じまいと呼ぶ。  山小屋や石室が営業を始めると、日本各地や外国の人々も3776mの山頂を目指して集まってくる。特に学校が夏休みに入り、梅雨が明けたころから8月の旧盆までは、老若男女が連日押し寄せ、お山は満員となり、登山道は渋滞し、山小屋からは人があふれる。  富士宮口から登ろうとする場合は東海道新幹線の新富士駅、三島駅などからの登山バスで五合目まで行き、自分の足で山頂へ向けて歩きだすことになる。山梨県側には吉田口があり、東京方面からの登山者が多い。  目の前にそびえる富士山はすぐそこに見えるため、山の未経験者は始めからスピードを出しすぎ、7合目か8合目付近でたいていバテてしまう。登り一辺倒の富士山は始めから最後まで、ゆっくり過ぎるほどのペースで歩くことがコツである。新6合から宝永火口へ行く巻き道が御中道コースで、標高2300mから2500mを上下しながら富士山の中腹を1周することができたが、剣ガ峰大沢の崩壊で通行不能になっている。  山慣れたパーティならば新6合から左に入り、赤ペンキや踏み跡を拾いながら、いくつもの沢を渡り3時間もかければ大沢まで行くことができる。辺りは樹林帯で、シャクナゲの群落やクルマユリやシオガマなどの高山植物が咲く。  9合目右側の深い沢に残る万年雪は、山麓からも見ることができる。富士宮口を登りつめると正面に浅間神社奥ノ院がある。隣は郵便局。もうひとふんばりすると、最高地点の剣ヶ峰。山頂にはかつては毎日データを送り続けていた気象観測所跡が残っている。天候に恵まれたならば噴火口の周囲を歩く御鉢巡りが楽しめる。

編集部おすすめ記事