東北の名峰・鳥海山。扇子森と鳥海湖をめぐり、花々と雄大な風景を愉しむ

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東北を代表する名山・鳥海山(ちょうかいざん・ちょうかいさん)は、その秀麗な山容から秋田富士、出羽富士とも呼ばれ、山上には雄大な風景が展開します。今回は鳥海山に登る代表的な登山道、象潟(きさかた)コースをたどって、花々と山岳風景を満喫する山歩きを紹介しましょう。

写真・文=斎藤政広、カバー写真=鳥海湖と新山

象潟コース・鉾立から御浜へ

鳥海山の西面に延びる鳥海ブルーラインの最高所、鉾立(ほこだて)から歩き始めます。森林限界のブナ林の道を過ぎ、左手に奈曽谷(なそだに)の渓谷を望みながら、登っていきます。夏の花・ヨツバヒヨドリには、ヒョウモンチョウの仲間たちや、旅するチョウ、アサギマダラなどが吸蜜に訪れます。

尾根渡りと呼ばれる尾根道を進み県境を過ぎると、登山道の岩の隙間にはミヤマツボスミレが目についてきます。このあたりからは大きな岩場の道になり、雪渓の水が流れる岩場を渡って、少し登れば賽ノ河原に着きます。

広々とした賽ノ河原
広々とした賽ノ河原

賽ノ河原周辺にはニッコウキスゲやチングルマ、イワカガミ、ヒナザクラ、イワイチョウなどの高山植物たちが迎えてくれます。ここでひと休みもいいでしょう。岩の隙間からはオコジョがひょっこり顔を見せてくれるかもしれません。

賽ノ河原を過ぎて灌木帯に入り高度を上げていくと、草原状の道になります。左手下方に稲倉岳を見ながら進むと、まもなく小屋のある御浜(おはま)に着きます。トイレもあるので、ここでちょっとひと休み。

稲倉岳
稲倉岳
御浜小屋
御浜小屋

御浜からは風景が一気に広がり、新山(しんざん)が眺められます。今日の目的地は、その手前にあるどっしりとした山体、扇子森(せんすもり)です。眼下には鳥海湖が見えます。

御浜から新山。手前のなだらかな盛り上がりが扇子森
御浜から新山。手前のなだらかな盛り上がりが扇子森

扇子森から鳥海湖をめぐる

御浜から緩やかに登って扇子森へ。扇子森山頂部は畝状に植物帯が広がり、さまざまな植物が観察できます。なだらかに下って八丁坂に入っていくと、目の前に外輪山と新山が近づき、雄大な山岳風景が広がります。

なだらかな扇子森の山頂部
なだらかな扇子森の山頂部
八丁坂を下って御田ヶ原分岐へ
八丁坂を下って御田ヶ原分岐へ

鞍部の御田ヶ原分岐に出て右折し、新山や外輪山へのメインルートから離れて扇子森の山腹をたどるコースに入っていきます。ここからは新山方面を背にして、今度は海側の視界が飛び込んできます。鍋森とその後方に笙ヶ岳(しょうがたけ)が見え、さらに彼方に日本海が見え、景色の移り変わりが楽しめます。

なだらかな山腹道を進んでいくと・・・
なだらかな山腹道を進んでいくと・・・
鍋森とその後方に笙ヶ岳が現われる。奥に日本海
鍋森とその後方に笙ヶ岳が現われる。奥に日本海

左手に目を向けると、千畳ヶ原(せんじょうがはら)ののびやかな高層湿原が広がります。天主森(てんしゅもり)のピークの後ろには、遠くに月山(がっさん)が見えます。

千畳ヶ原
千畳ヶ原

やがて鳥海湖(鳥ノ海)の間近に出て木道を進み、長坂道に入り山岳風景を楽しみながら、起点の御浜に戻ります。鳥海湖と新山を正面にした、鳥海山を代表する風景(トップ写真)などを堪能しながら歩きましょう。御浜でゆっくりと休んだら、下山にかかります。賽ノ河原で小砂川堰を見たり、雪渓の水に触れてみるのもいいでしょう。

小砂川堰
小砂川堰

時々休憩を入れながら、もと来た道をゆっくりと下ります。途中振り返れば、奈曽谷の奥に鳥海山の山頂部が顔をのぞかせてくれます。森林限界にあたるブナ林が出てきて、駐車帯の脇にある地を這うような大きなダケカンバが目に飛び込んでくれば、登山口の鉾立に到着です。

下り途中にて、奈曽谷越しの新山
下り途中にて、奈曽谷越しの新山

次からは、山中で出会った虫や花などのいきものたちを紹介しましょう。

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プロフィール

斎藤政広(さいとう・まさひろ) 

横浜市生まれ、山形県酒田市在住。東北のブナの森や山々をフィールドに歩き、山麓での多彩な自然との出会いを楽しんでいる。おもな著書に『鳥海山・ブナの森の物語』『鳥海山・花と生きものたちの森』『鳥海山・花図鑑』(無明舎出版)、『森のいのち』(メディア・パブリッシング)、『山と高原地図 鳥海山・月山』(昭文社)などがある。

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