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奥多摩に滝を見に行き、道迷い。深夜2時まで続いた83歳リーダーの奮闘
20年間、警視庁青梅警察署山岳救助隊を率いてきた著者が、実際に取り扱った遭難の実態と検証を綴る。安易な気持ちで奥多摩に登る登山者に警鐘を鳴らす書、ヤマケイ文庫『侮るな東京の山 新編奥多摩山岳救助隊日誌』から一部を紹介します。
文=金 邦夫
高齢化社会と登山
最も多い体力不足による遭難
中高年の登山で一番問題になるのは、年齢からくる体力不足である。とくに中高年になってから登山をはじめた者は自分の体力のペース配分がわからないから、登ることに体力を使い切り、下山時に足がつって歩けなくなったり、よろけて転倒したりという事故が多くなる。「あなたは何をして体を鍛えていますか?」と質問すると、「山に登って体を鍛えています」などという答えが返ってくる。私はいつも言う。「違うんだなあ、山に登って体を鍛えるのではなく、体を鍛えてから山にいくのでなければダメ」。ひと月に1回か2回山に登って、体なんか鍛えられるわけがないのである。ほかのスポーツでも、基礎体力をつけ、勉強して、練習をして、それから試合に望む。登山だって同じなのである。
常にジョギングや腕立て伏せ、腹筋などの運動をして体力、持久力をつけておく。そして装備はどういうものが必要か、地図の読み方、天気図の見方、テントの張り方、焚き火の仕方。いろいろな勉強、訓練をして試合に挑む。その試合場は「山」という大自然だ。
山に登る者は、常にそういう心構えが必要だと思う。ほかのスポーツでは試合に負けても死ぬことはないが、登山では命を落とす人がたくさんいるのだから、なおさらである。
高齢者の事故事例をみると、その原因が体力不足によるものが最も多い。「山で体を鍛える」のではなく「体を鍛えてから」山に登ってほしいものだ。
侮るな東京の山 新編奥多摩山岳救助隊日誌
奥多摩のリアルがここにある。 山岳救助隊を20年にわたって率いた著者が鳴らし続ける警鐘。