チベット文化圏の秘境 インド・ラダック:トレイルトラベラーズ「世界のトレイルを巡る旅」(3)

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旅と組み合わせて気軽に楽しめる世界のトレイルを紹介する連載「世界のトレイルを巡る旅」。トレッキングをテーマに300日間で世界一周旅行をした山野夫婦が、訪れた五大陸50超のトレイルからおすすめの場所を振り返る。第3回目は、北インドの秘境、ラダック地方でのトレッキング。ここはほとんどの場所が標高3000m以上という高地で、荒涼とした異世界が広がる。今回はチベット仏教のゴンパ巡り、4250mにある青く透明なパンゴン湖などのラダック観光とともに、日帰りで行ったトレッキングの様子をお伝えする。

 

標高3500mの街へ

2016年5月2日(世界一周20日目)

茶褐色の地肌がむき出しになった山を眼下に、僕らを乗せた機体は大きく左に旋回し、高度を下げていく。開けた谷の真ん中には一本の川が蛇行しながら伸び、その周辺にだけ、春を迎えたわずかな新緑が彩っていた。

山といえば森林で覆われた緑色のものだというイメージとは裏腹に、どこまでも続く荒涼とした大地は、この場所の厳しい自然環境を感じさせる。

機内から見えたラダックの景色
 
 

川の近くにだけオアシスのように生える樹木が美しい

 

ネパール・アンナプルナでのトレッキングを終えた僕らは、カトマンズからインドの首都デリーを経由し、北インド・ラダック地方の中心地レーの街を訪れた。空港を出てタクシーを拾い、ゲストハウスに着いた頃には軽い頭痛が始まっていた。高山病の症状だ。

レーの街の標高は約3500m。昨日はデリーの空港で夜を明かし、寝不足のまま一気にこの標高に来たわけだから無理もない。2、3日は観光をして体を慣らし、トレッキングは最後に行うことにした。

街を歩くとすぐに、岩山にへばりつくように建てられた大きな建造物が目に入ってくる。かつてここを統治していたラダック王国の王宮だ。今は廃墟だが、レーのシンボルとして今も十分な存在感を示している。

レーのメインストリート

 

今は廃墟となっているレー王宮

 

路地を歩いていくと、ミルクショップという看板を出すお店の前を通った。お兄さんの笑顔に誘われて、手作りラッシーを頂いた。カメラを向けるとキメ顔で応えてくれた。

「ジュレー」。ラダック語の挨拶で感謝の気持ちを伝えた。

ミルクショップでラッシーを作ってもらった

 

標高4250mの湖

2016年5月4日(世界一周22日目)

ラダックはチベット文化圏にあり、中国のチベット自治区よりもチベットらしい場所と言われる。インドに帰属したという歴史的背景もあって、文化大革命の影響を受けず、古くからのゴンパ(僧院)や伝統文化がそのまま残されているためだ。

ゴンパは岩山の上に作られ、その周りを僧侶の宿舎である僧房がいくつも取り囲む。砦のようなその姿は勇ましくもあり、中に入ると壁一面、鮮やかな色彩で彩られた曼荼羅の壁画や、迫力のある仏像を拝むことができる。

この日の早朝、僕らは上ラダックにあるティクセ・ゴンパを訪れた。荘厳な姿からラダックのポタラ宮と例えられるゴンパだ。中に入ると朝のお祈りが始まっていた。

講堂の隅に座り見学をさせてもらう。子供の僧侶が大きなヤカンからバター茶を入れてくれた。年配の僧侶のお経に合わせ、他の僧侶が一斉に声を出す。しばらくの間まぶたを閉じ、耳を澄まして頭を空っぽにして、全身でお祈りを感じることにした。

ティクセ・ゴンパの朝のお祈り

 

パンゴン湖へ向かう途中に見えたチェムレ・ゴンパ

 

ティクセ・ゴンパの次に向かったのは、標高4250mにある湖、パンゴン湖。僕らを乗せた車は、樹木のない山肌に作られたデコボコの未舗装路を延々と走り、5600mの峠を越えていく。経験したことのない高度に悲鳴をあげる身体に、車酔いが追い打ちをかける。

車に揺られること数時間。大きな湖にたどり着いた。青く透き通った湖面に、さらに青く澄み渡った空と背後に連なる茶褐色の山々が映り込む。パンゴン湖だ。標高4250m。富士山より高いところに琵琶湖級の湖がある。神秘的な色彩とスケールの大きさに思わず息を飲む。

ここにたどり着くまでの苦労と、激しい高山病の症状の影響もあってか、湖畔に座り込み、まるでこの世のものとは思えない景色を二人で長い時間見ていた。

未舗装の山道を進み標高を上げていく

 

青く神秘的な湖、パンゴン湖

 

映画のワンシーンにもなった、インド人にも人気の観光スポット

 

標高5000mのコル

2016年5月6日(世界一周24日目)

ラダック滞在5日目。レーからほど近い山を歩きに行った。今回はトレイルが不明瞭で案内が必要ということで、ガイドを手配してのトレッキングだ。

集落の外れの放牧地からスタート。高い標高と極端に乾燥した気候から、山肌に樹木はなく、乾きに強そうな植物のみが点在している。明瞭な踏み跡などは無く、ガイドの背中を追いかけながら谷筋に沿って登っていく。

牧草地のような場所からトレッキング開始

 

空気が薄く、すぐに息があがる。それでも身体は慣れてきたのか、コンディションは良い。前日までのラダック観光で一日中車に揺られるのに堪えていたこともあり、今日は自分の足で歩くことが楽しくて、思わず笑みがこぼれた。

とはいえ傾斜がキツくなるに連れ、数歩進む度に立ち止まらなければ前に進めないほど、息苦しくなっていく。未体験の領域だ。

荒涼とした谷筋を登っていく

途中ティーブレイクを挟み、登り始めてから6時間ほどかかって、反対側の谷筋に下るコルに到着。標高は5000mに迫る。本日の最高到達点だ。

見渡す限り4~5000m級の山々が連なっている。もう少し高いポイントまで登れば、遠くにはレーと、その先の村まで見渡すことができる。すっきりと晴れた青空と、赤とグレーを混ぜ合わせたような山肌の色のコントラストが、ラダックらしい景観を織り成している。初日、飛行機の中から眺めた山々を、今は自分の足で立って眺めているという充実感でいっぱいだ。

本日の最高地点、最高の眺め

 

ガイドさんに入れてもらったお茶で乾杯

 

下山時、正面遠くに、ラダックエリアの最高峰ストク・カンリが綺麗に見えた。周囲の山から明らかに頭一つ抜けた6000m級の高峰であることがはっきりとわかる。実に力強い山容だ。

下りは早い。登り返しは全くないため、ドンドン降りて行ける。途中、沢を渡るポイントがあったが、難しい箇所はない。遠くのほうにピヤンの集落が見え始め、農業用の用水路が出てきたら、ゴールはすぐだった。

ラダックは、ネパールから繋がる同じヒマラヤ山脈にあるが、その荒々しく乾燥した景色はアンナプルナとはまた違った表情を見せる。

車で移動してたくさんの場所を観光するのもいいけれど、僕らは一歩一歩、自分の足で歩くことがやっぱり好きなんだ。荒涼とした高地を踏みしめながら、改めてそれを実感した。

一つ抜けて見える山がストク・カンリだ

 

チベット仏教のゴンパ巡りや秘境巡りと組み合わせて楽しめるトレッキングエリア

ラダックは、チベット文化のゴンパ巡りや、パンゴン湖、ヌブラ谷を始めとする特徴的な景観など、見どころがたくさんあります。

多くの旅行者はこれらの観光を目的として、ラダックを訪れることと思いますが、ラダックの雄大な景観をゆったりと感じられるトレッキングもおすすめです。往復で3時間ほどのコースもあるようなので、基本的な装備と体力さえあれば、初心者の方でも楽しめると思います。個人的には、次の機会があれば、馬とコックと共に歩く長期のトレッキングにチャレンジしたいです。

なお、観光とトレッキングを組み合わせる場合、高地順応を考慮し、先に車での観光を行い、最後に体を動かすトレッキングを持ってくるのが良いかと思います。

ラダック・トレッキングに関する準備やアクセス、ルート、気候や装備については、トレイルトラベラーズのブログにもまとめていますので、よろしければご覧ください。

レーのレストランでチベット餃子のモモを楽しむ

 

プロフィール

Trail Travelers 山野尚大・優子

山と旅の愛好家。経営コンサルタントとして平日の激務と休日の山ごもりを両立させる日々から、結婚を機に心機一転、夫婦で絶景トレイルを巡る世界一周の旅に出発。2016年4月からの300日間で、五大陸の50超のトレイルを歩く。「Trail Travelers(トレイルトラベラーズ)」を立ち上げ、旅行と組み合わせたトレッキングの楽しみ方を発信中。
【ブログ】
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