残雪期の権現岳・編笠山へ。のんびりテント泊と晴天の南アルプスの展望を満喫!

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読者レポーターより連休の登山レポをお届けします。真鍋 晋さんは、雪が少し残る八ヶ岳の権現岳&編笠山へ。

文・写真=真鍋 晋


かねてより「ゴールデンウィークには八ヶ岳でテント泊をしてみたい」と考えていた。ただ、この季節のテント泊はあまり経験がなく、本格的な雪山装備は避けたかった。そこで事前のリサーチから、比較的雪の少ない青年小屋でテント泊をし、編笠山、権現岳の2座をピストン登頂する案が浮上した。直前のSNSの書き込みでは、テント場に残雪はなく、夜間の最低気温も0℃程度ということだ。手持ちのスリーシーズン用テント、シュラフで充分対応可能であり、念のため保温用のダウンジャケットと凍結時のチェーンスパイクを持参することにした。

朝5時、観音平駐車場に到着。車内でゆっくり朝食をとり、いざ登山道へ。この季節の山道は、肌寒い空気が心地よい。樹林帯での3時間の急登は、少し体力を要する。しかし八ヶ岳らしい、苔むした幻想的な光景を目の当たりにし、つらいはずの急登も楽しむことができた。日向に雪はほとんどないものの、日陰はまだたっぷり雪が残っていた。坂はそれほど急ではなく、ここではチェーンスパイクは装着しなかった。

残雪期の編笠山・権現岳 日向の登山道
日向の登山道
残雪期の編笠山・権現岳 日陰の登山道
日陰の登山道

9時30分青年小屋に到着。日当たりのよい、開けたテント場は、小学校の運動場くらいの広さはあった。早々に受付を済ませ、テントを設営した。まだテントは4、5張だけだったが、夕方にはほぼ満員となった。設営を終えると、アタックザックに持ち替え、昼食前に権現岳山頂をめざすことにした。

権現岳への道のりは、前半が樹林帯、後半が岩稜帯である。樹林帯は残雪も多く、勾配もすこし急であるため、チェーンスパイクを着用した。岩稜帯に出ると、日差しも強くなり、半袖でも汗ばむ陽気となった。正面にそびえたつ、冠雪をたたえた南アルプスの山々が美しい。

南アルプスの山々
南アルプスの山々

ちょっとした岩稜帯をトラバースすると、いよいよ山頂に到着する。山頂はごつごつとした岩稜が連続する、殺伐とした光景である。修験僧の霊場であった往年の姿がしのばれる。

権現岳山頂
権現岳山頂

山頂は狭く、のんびりするスペースもないため、権現小屋(現在は休業中)まで引き返して、小休止をとることにした。南アルプスの絶景を眺めながら、のんびりとお菓子と飲み物で補給した。13時までには青年小屋に戻り、ランチをいただく。スパイスの効いたビーフカレーはとてもおいしかった。

権現小屋でのひととき
権現小屋でのひととき

さて、午後はなにをしようか? 今回の山行でのメインは、編笠山から眺めるご来光だった。テント場から編笠山山頂まで30分。初日のうちに下見しておくことにした。直前のSNSの書き込みにチェーンスパイクは不要と書かれており、これを鵜呑みにして、ほぼ手ぶらで出かけてしまった。ところが北面の登山道は日陰が凍結しており、特に下りは難渋した。スパイクなしで下山している人などほとんどおらず、こうした書き込みは鵜呑みにしてはいけないことを肝に銘じた。小屋でビールとつまみを購入し、夕暮れのひと時を楽しんだ。夜の寒さを心配していたが、気づいたら眠っており、シュラフの中は実に温かかった。

八ヶ岳青年小屋とテント場
青年小屋とテント場

朝4時30分起床。テント場で迎える5月の朝は、冷気が立ち込めていた。ダウンジャケットを着こみ、いざ編笠山山頂へ。山頂に着くと、突然視界が広がり、眼下には雲海が広がっていた。ほどなくご来光が朝の到来を告げる。幻想的で厳かな時間が過ぎ、しばらくたたずんでいた。

八ヶ岳・編笠山山頂からのご来光
ご来光

すこし寒くなってきたころ、テント場へと戻る。温かいコーヒーを淹れ、持参したパンでのんびり朝食をとった。今回の山行では、午前中のうちに登山口まで下山する予定にしていた。日が完全に昇り、朝露が乾くのを待ち、テントを撤収した。柔らかな日差しを浴びながら、下る帰路は快適だった。これまで夏の喧騒の中でしか、八ヶ岳には訪れたことがなかったが、残雪のこの時期には、また異なる味わいを満喫することができた。

MAP&DATA

ヤマタイムで周辺の地図を見る

コース

【1日目】観音平~青年小屋~権現岳~青年小屋(参考コースタイム:5時間50分)
【2日目】青年小屋~編笠山~青年小屋~観音平(参考コースタイム:3時間20分)

真鍋 晋(読者レポーター)

真鍋 晋(読者レポーター)

普段は現役外科医、週末は登山・トレラン・ジョギング。じっと座っていることが、苦手な性分です。

この記事に登場する山

山梨県 長野県 / 八ヶ岳

編笠山 標高 2,524m

 編笠山は八ヶ岳連峰最南端の山で、山梨県北杜市小淵沢町と長野県諏訪郡富士見町との境にある。山裾を長く引いた優美な山容が、編笠を伏せたように見えるところから山名となったと考えられる。  山頂からの展望の特色は、甲斐駒や鳳凰三山が釜無川を隔ててぐっと間近に迫るところにある。また、権現岳、赤岳、阿弥陀岳などがうち連なり、ひときわ感慨深いものがある。  山頂部はハイマツの限界域で、多量の岩塊を擁しており、青年小屋付近にはヤナギラン、グンナイフウロ、ヤマハハコ、シナノオトギリなどの草花が待ち受けている。  権現岳までの間にはノロシバ、西ギボシ、ギボシの小岩塔があり、北西には西岳を従えている。ノロシバとは、16世紀後半に武田信玄の家臣、高坂弾正が狼煙(のろし)台を置いた所と伝えられている。また、西岳へは青年小屋から乙女ノ水場を経て「源治新道」というルートが拓かれている。山麓にある観音平は甲斐源氏ゆかりの地で、富士山をはじめ南アルプスの展望に恵まれた台地である。  小淵沢駅から観音平を経て5時間弱、権現岳から2時間、八峰苑から西岳を経て3時間。

山梨県 長野県 / 八ヶ岳

権現岳 標高 2,715m

 権現岳の山頂には祠が鎮座する岩塔があり、かつては桧峰神社、または八ヶ岳権現と呼ばれており、山岳宗教の場であったことを物語っている。第56代清和天皇の貞観(じようがん)10年(868)9月17日、甲斐檜峰の神は従五位下を授かった、と『日本三代実録』にあり、権現岳は蓼科山とともに聖なる山として国家的に認められていたといえよう。  位置的には長野県諏訪郡富士見町と山梨県北巨摩郡大泉村(現・北杜市)とに接しており、南アルプスをはじめ全方位的な眺望に恵まれ、とりわけ天狗尾根の怪岩峰を従えた赤岳の容姿が魅力的である。  南東に三ツ頭、前三ツ頭と続く尾根を張り、南西にはギボシ、ノロシバ、編笠山へのルートを、また北には旭岳、ツルネを経てキレットへと岩の稜線が延びている。東面には悪場として名高い権現沢、西面の岩場は立場川(たつばがわ)へと鋭く落ち込んでいる。権現岳と旭岳との間、諏訪側の断崖に20mほどの鉄バシコが取り付けられていて、「源治梯子」と呼ばれている。  甲斐大泉駅から天女山を経て5時間30分、甲斐小泉駅からアトノ尾根経由7時間弱、縦走路をキレットから登れば1時間30分、編笠山からは2時間強の行程である。

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