かつての交易路も今は人影もまばら。奥多摩と甲州を東西に結んだ古道・丹波大菩薩道トレッキング

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読者レポーターより登山レポをお届けします。上町嵩広さんは人気の大菩薩峠(だいぼさつとうげ)から静かな古道・丹波(たば)大菩薩道へ。

文・写真=上町嵩広


5月後半の初夏、奥秩父の大菩薩峠を東西に横断する旧・青梅街道にあたる古道「丹波大菩薩道」を歩いてまいりました。上日川峠(かみにっかわとうげ)を起点にして大菩薩峠を経て丹波山村へ下山する登山ルートです。

大菩薩連嶺案内図
大菩薩連嶺案内図

大菩薩峠・大菩薩嶺登山のメジャーな出発地である上日川峠バス停からスタートします。上日川峠まではJR中央本線・甲斐大和駅から季節運行・週末のみで路線バス(栄和交通)が走っています。

バス停すぐそばのロッヂ長兵衛横から新緑の林道を抜けて福ちゃん荘に着きました。林のなかの比較的なだらかな登りが大菩薩峠まで続きます。標高が上がってくると、それまでの広葉樹の森のなかにツガやモミなどの針葉樹も目立ち始めました。

大菩薩峠の稜線と山小屋・介山荘
大菩薩峠の稜線と山小屋・介山荘

峠までは急登といえるような部分はないのでゆったりと森歩きを楽しめました。左手に開けた稜線が見えると、その先が大菩薩峠です。峠にある山小屋・介山荘を過ぎると一気に展望が開けました。晴れていれば西に目を向けると富士山や甲斐駒ヶ岳(かいこまがたけ)などの南アルプスの山々が見えますが、この日は曇天のため眺めることができませんでした。残念・・・。

大菩薩峠からの丹波大菩薩道の分岐
大菩薩峠からの丹波大菩薩道の分岐
鮮やかな新緑のなかの大菩薩道
鮮やかな新緑のなかの大菩薩道

峠で一息ついて気を引き締めなおしてから東へ。大菩薩嶺へ向かうほかの登山者を背に、いよいよ丹波大菩薩道に入ります。最初はササが茂った森の斜面をトラバース気味に下っていきます。新緑の広葉樹の数も増えて緑が濃さを増します。森はカエデやブナなどが豊かで新緑が目に麗しい。秋になれば紅葉も鮮やかに色づきそうです。

丹波大菩薩道に残された石段の痕跡
丹波大菩薩道に残された石段の痕跡

しばらく道を下っていくと平地があり「ニワタシバ」との古い看板がありました。ここで交易の際に荷渡しをしていた場所であったということなのでしょう。かつてはこの道が青梅街道であり奥多摩と甲府を結ぶ交易や生活の主要道でした。その名残か、道のところどころに石組みや石段の痕跡が残っています。古道・旧道好きの方にとってもおもしろいのではないでしょうか。

登山道を覆い隠すほどの落ち葉の層
登山道を覆い隠すほどの落ち葉の層

丹波大菩薩道は静かな森と山歩きを楽しめました。この日は週末で大菩薩峠・大菩薩嶺の登山者で大にぎわい。上日川峠へのバスも臨時便が出るほどでした。日本百名山として登山者に大人気ですが、ひとつ脇の道に入っただけでぱたりと人影は消えてしまいます。このときに道でお会いしたほかの登山者はほんの2、3人。逆に少し寂しすぎるかもしれませんが・・・。5月にもかかわらず積み重なった落ち葉の層が登山道を厚く覆っていきます。風や人が通ることが少ないためでしょうか。

休憩適地となるノーメダワ
休憩適地となるノーメダワ
塩バニラパンケーキ
塩バニラパンケーキ

次に開けた平場である「フルコンバ」にたどり着き、ふたたび森に入ると左手に丹波山村へ、右手に小菅村へ道が分岐しています。丹波山村へのルートを進むとスギなどの針葉樹が増えて少し暗い道になりました。さらに下ると今度は「ノーメダワ」という平地に出てきました。ベンチも設置されて休憩適地になっており、ちょっとお昼休憩。

今回の山メシは「塩バニラパンケーキ」。ふわふわのパンケーキ生地の間に甘い香りのバニラクリームが挟まっています。クリームはサッパリとした味わいに塩の風味が効いており、疲れた体にちょっとありがたいです。

追分からは奥多摩の石尾根の展望がある
追分からは奥多摩の石尾根の展望がある
左端が雲取山
左端が雲取山

道標に従い丹波山方面へ再び歩き出します。小さな沢を渡り向こう側に続く道を進みます。決して沢を下らないでください。落ち葉に隠れて登山道が不明瞭なため注意が必要かもしれません。その先で「追分」という分岐点に差しかかります。東側には奥多摩の石尾根の山並みの眺望があり雲取山(くもとりやま)などを見ることができます。

大木が残る丹波山村の森
大木が残る丹波山村の森

追分からさらに丹波山方面へ下っていきます。しばらくすると右手に沢が出てきます。高巻きするようにつけられた道を進み、いったん沢に下りて徒渉し、また高巻きするように沢沿いの道が続きます。このあたりはけっこう大木の数が多く、深い森の雰囲気を楽しむことができました。

「藤タワ」まで下ってくれば丹波山村の集落までもう一息。ここまでの登山道に大きな難所や危険箇所などはほとんどありません。ただルートの途中に小菅村方面へ向かう分岐路や作業道などがいくつかあったので、間違えないように注意した方がよさそうです。

高尾天平登山口
高尾天平登山口
道の駅たばやま
道の駅たばやま

藤タワから三方向に道が分かれており、いずれのルートでも集落に出ることができます。今回はハイキングコースと記載のあった高尾天平(たかおてんでいろ)を経由するルートを進みます。幅の広い林道のようなルートを上がっていきますとなだらかに開けた尾根に出ます。左手に集落が見えてくると、そこからは一気に斜面を下っていき、やがて舗装道路に出て登山道は終了です。道なりに集落へ入って道の駅たばやまに到着しました。今回はここがゴールです。道の駅の前を通る国道411号線に出ればJR青梅線・奥多摩駅行きのバス停(西東京バス)もあります。

丹波大菩薩道は静かで濃密な森と山の雰囲気をゆったりと味わえる登山ルートという印象です。登山者は少ないようですが、道は荒廃していることもなく道標もしっかりと設置されているので大きな心配などはなく、全体的に歩きやすい登山道でした。(山行日程=2024年5月19日)

 立ち寄った日帰り温泉
「丹波山温泉のめこい湯」

「丹波山温泉のめこい湯」
道の駅たばやまに近接した日帰り温泉施設です。硫黄の香りがほのかに感じられ、美肌の湯として知られています。「のめこい」とは丹波山村の方言「のめっこい」が語源で「つるつる・すべすべ」という意味だそうです。道の駅からは丹波川(多摩川の源流のひとつ)を挟んだ吊り橋を渡ります。館内に食堂もありますので入浴後に帰りのバスの時間までくつろげます。でもバス停まで少し距離がありますので気を付けてくださいね。

MAP&DATA

ヤマタイムで周辺の地図を見る

コース

上日川峠~大菩薩峠~ノーメダワ~藤ダワ~丹波山村役場前(参考コースタイム:6時間15分)

上町嵩広(読者レポーター)

上町嵩広(読者レポーター)

登山歴は15年ほど。普段は奥多摩や丹沢周辺に出没し、八ヶ岳や北アルプスにも出張ります。好きな山は八ヶ岳の編笠山。山の抱負は「ちょっとだけ背伸びした山を登ってみる」。

この記事に登場する山

山梨県 / 関東山地

大菩薩嶺 標高 2,057m

 大菩薩峠の北にあり、三等三角点が埋められている。伝説によると、甲斐源氏の祖、新羅三郎義光が奥州に遠征時、道を失ったが、木こりに化けた軍神の導きでここを越えた。彼は軍神の加護に感謝し、八幡大菩薩の名を高らかに称えた。これが山名の由来とのこと。  戦前、戦後ともにハイキングのメッカであり、中腹まで車が使える昨今はなおのことである。この山が有名になったのは、なんといっても、大正2年に始まった中里介山の小説『大菩薩峠』によってであろう。中腹の勝縁荘(休業中)には介山直筆の「大菩薩峠勝縁荘」の扁額も残る。  山頂こそ展望には恵まれないが、南面の尾根筋はカヤトの原で、日川の谷を前景にした富士山をはじめ、西側の甲府盆地を下にして連なる南アルプスは、上河内岳から甲斐駒ヶ岳まで、まさに一目千両といった感じである。  さて、昔、奈良の大仏を見た甲州人が、その大きさに驚いた。ところが彼は、「甲州に来れば小仏でも三里、大菩薩となれば八里もある」とほざいたという。甲州人はなんと負け惜しみの強い人種だろうか。  登山口の裂石(さけいし)から大菩薩峠経由山頂まで4時間、同じく丸川峠からも4時間で山頂に達する。

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