“九州最後の秘境”大崩山でダイナミックな岩稜歩きを楽しむ

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読者レポーターより登山レポをお届けします。納豆もやしさんは「九州最後の秘境」とも呼ばれる宮崎県・大崩山(おおくえやま)へ。

文・写真=納豆もやし


朝夕に肌寒さが残る5月の下旬、宮崎県延岡市は大崩山に行ってまいりました。上部に露出した巨大な花崗岩がシンボリックな名峰です。天候はガスで展望には恵まれなかったものの、異世界感漂う独特の景観に魅了されました。ぜひ紹介させてください。

うっすらと明るい朝5時30分、大崩山登山口から入山。午後にかけて天候が悪化する予定でした。樹林帯の道を確実に歩いていきます。

大崩山登山口
大崩山登山口

ゴロゴロとした巨岩に根が絡まりつく独特の景観に、つい足を止めてしまいます。祝子川(ほうりがわ)沿いに歩いていき、早々に鉄ハシゴを越え、しばらく歩くと大崩山荘に到着します。山荘前から谷沿いに視線を向けると、山頂付近の岩塊が目に飛び込みます。か、かっこいい・・・!!これからあそこまで登るのかと想像し、ゾクゾクします。

祝子川を徒渉

山荘を後にすると、徒渉箇所に差し掛かります。ここ数日雨もなく、靴を脱がずに徒渉できそうでした。丸みを帯びた岩の間を縫うようにルートを探し右岸に渡りました。ここからゆるやかに谷沿いを詰めたのち、急登にさしかかります。途中、アケボノツツジがまだ咲いていました。

アケボノツツジ
アケボノツツジ

尾根に出ると、ハシゴもある傾斜の強い道が続きます。

150mほど登ると、植生が変わり、視界が開け、岩がちな道になってきました。

そこからさらに進むと袖(そで)ダキ展望所へ。空模様が怪しくなってきました。延岡市が曇り予報だったため、山の上はやはり雨になるかと思いながら、そそくさと出発。

袖ダキ展望所より、小積ダキ
袖ダキ展望所より、小積ダキ

この先もハシゴや急登が容赦なく続きます。ふくらはぎや大腿二頭筋、使う筋肉を分散することを意識します。岩の上をたどる登山道は北アルプスともまた違う趣で、とても楽しいです。

袖ダキ展望所より、小積ダキ

しばらく岩稜帯を進むと、再び樹林帯に入ります。標高も1400mを越え、樹木の表情も多種多様。下界ではまず見ることのない巨木かと思えば、皮だけが残っていたり、朽ちていく木がそこここに転がっていたり、とまるで異世界でした。

朽ちた倒木
朽ちた倒木

10時10分に山頂に到着。この時にはいよいよ小雨となり、風も強く、少々寒さを感じました。下りの前にしっかり腹ごしらえ。家でカシワご飯を握ってきたのですが、塩気が足りず、次回への教訓となりました。山は塩分多めに限ります。

大崩山山頂
大崩山山頂

ガスのなか下り始めます。10分ほどすると、あれ・・・雲が薄くなっている。おいおい、山頂で晴れてくれ、と悪態をつきながら下っていくと、展望ポイントに到着しました。切り立った花崗岩から谷間がスパンと切れ落ちています。生まれたての小鹿のように慎重に、岩の端に立って見下ろしてみました。顔に吹き上げてくる風、圧倒的高度感。ガスで下が見えず、余計に高く感じました。まるで天空にいるような景観です。

この展望ポイントから山頂側に少し戻り、坊主尾根ルートを下っていきます。岩壁に張ってあるロープを伝ってトラバース。簡易ハーネスとカラビナで確保することが推奨されています。高所が苦手な人には少々酷なルートかもしれません。とはいえ、足場は切られており、岩も乾いており安定していていました。雨で濡れていたら不安定だったと思います。ふと展望ポイントを振り返ると、つるんとした岩肌が堂々とそびえています。上にいる人と手を振り合って、先に進みました。

このあともしばらく岩稜の道が続きます。少しでも高度感を感じるようなところにはロープが張ってありました。ハシゴはところどころ不安定になっているので、ゆっくり確実に降りていきます。

繰り返し現われる表情豊かな岩壁に魅了されながら下っていくこと約50分、樹林帯に入りました。なんだか日常に戻ってきたような安心感を抱きました。そこからは沢に向かっておりていき、徒渉を終え、大崩山荘に戻ってきました。少しゆっくり休憩をして、ダイナミックな植生や地形の変化、道の楽しさを思い出しました。

気持ちをあらため、大崩山荘からは登山口へ向かってもくもくと歩き、14時に無事下山。全体を振り返ると、岩場、ハシゴが多く、一人で行くなら慎重に進んだ方がよさそうだと感じます。植生、地形の豊かさは唯一無二の大崩山。次回はぜひ晴れの日に訪れたいものです。(山行日程=2024年5月26日)

MAP&DATA

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コース

大崩山登山口~大崩山荘~袖ダキ展望所~大崩山~坊主尾根~大崩山登山口(参考コースタイム:7時間45分)

納豆もやし(読者レポーター)

コロナ禍の大学で山登りをはじめ、福岡を拠点に九州、日本アルプスなどに登る。低山から岩場まで、山を楽しみ尽くすため、目下トレーニング中。植生や麓の暮らし、歴史のことを学び、山をより深堀りしていきたい、と思うこのごろ。

この記事に登場する山

宮崎県 / 九州山地 大崩山塊

大崩山 標高 1,644m

 祖母・傾国定公園の一部。山頂の一等三角点は北川町と北方町(ともに現・延岡市)の境界に位置する。大崩山は1990年3月、林野庁の「祖母・傾・大崩山生態系保護地域」に設定された。大崩山塊の北西面は日之影町に、また北東面は大分県宇目町(現・佐伯市)に属す。  山名は、遠望すると、山が大きく崩れたように見えることからつけられたとか。  九州最後の秘境で、特に「祝子川(ほうりがわ)源流原生林地区」は、国立公園クラスの景観と自然を誇る。ここの特徴は、原生樹海とこの地域独特の巨大な岩峰(だき)群(方言で崖をダキという)、美しさが三里続くという三里河原の清流にある。  地質深層は花崗閃緑岩。地表近くは花崗岩で、一部に見立礫岩を乗せている。また、大崩山塊を取り巻く形で、花崗斑岩のリングダイク地形が、可愛岳から西へ上野岳まで約40kmの長さで続く。この規模は日本有数のものである。  植物は多岐にわたり、北限・南限植物も多く、ツツジ類だけでも22種を数える。  原生林下位部は、ヤブツバキ、サカキが群生する照葉樹林帯で、中位部はモミ、ツガ、スズタケの群集となる。1000m以上の上位部は、夏緑広葉樹林で、ブナ、ミズナラ、アケボノツツジの森となる。稀産植物にはアオツリバナ、ネズ、ミヤマガンピ、ヒメコマツ、ウラジロヨウラクなどがある。動物では、カモシカ、シカ、コマドリ、ホシガラス、ヒュウガカケスなどが生息する。なお、昭和16年ごろまで生息したツキノワグマが現在も生息するという話もある。  歴史的には見立(みたて)鉱山が1583年ごろ発見され、1627年に洞(どう)岳鉱を、1628年には大吹鉱を開いたとあり、これにまつわる女郎屋敷、女郎墓が残っている。明治には、西郷隆盛が西南の役で上祝子から上鹿川へ鹿川越をし、その時宿泊した民家が上祝子に今も残っている。隆盛は座敷のほぼ中央に座り、部屋の中に弾除(たまよ)けの白羽二重(しろはぶたえ)を二重に張り巡らせていたという。  伝説に平家の落武者「若狭の守」の雀物語があり、今でも上祝子には雀がいないという。また、山域奥部には山の神の祠もなく、これらからも最近まで秘境であったことがわかる。  登山コースは上祝子川地区東の延岡市から入山すると町営「大崩山森の家」、民宿「祝子川渓流荘」が登山基地になる。登山口から30分の所に「大崩山の家」(無人)もある。山頂へは、数コースあり、いずれも登り4~5時間。  また「鹿川キャンプ場」や「鹿川山荘」もある上鹿川地区からは登山口まで林道が長いのでやや不便だが、登山口から山頂まで3時間程度。見立鉱山跡地区の頭巾、五葉岳、お姫山、鹿納山、洞岳の登山口からは、1時間から3時間。

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