序章 SEA TO SUMMITが俺の登り方|「海から七大陸最高峰に登頂」をめざした理由

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今、一人の日本人冒険家がある挑戦を行なっている。プロジェクト名は「SEA TO SEVEN SUMMITS(シー・トゥ・セブン・サミッツ)」。七大陸最高峰を海から頂上まで人力で登頂するという挑戦だ。2018年にオーストラリア大陸最高峰のコジオスコから始まったこのプロジェクトは、2023年に5つ目の頂であるデナリを登り、世界最高峰・エベレスト、南極大陸最高峰・ヴィンソン・マシフの2座を残すのみ。そんな挑戦を続ける冒険家・吉田智輝のSEA TO SEVEN SUMMITSへの旅路をたどる。

文・写真=吉田智輝

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エベレストSEA TO SUMMITを初登頂した男

1984年10月3日、ティム・マッカートニー=スネイプは、グレッグ・モーティマーと共に、オーストラリア人として初めて世界最高峰エベレストの頂上に立った。故郷に錦を飾ったティム。

祖国で開かれた祝賀会で、友人が声をかけた。

「ティム。お前がエベレストに登ったのは確かにすごい」

「でも君は、標高5200mのベースキャンプまで車で移動した。そこから頂上をめざし始めたんだから、山の一部を登ったに過ぎないじゃないか。君を含めて、まだ誰もエベレストをまともに登った者はいないよ」

この友人の何気ない冗談が、図らずもティムの冒険心をくすぐることになる。

のちに彼はこう語っている。

「エベレスト初登頂の経験はすばらしいものだった。でも、もっとできることがあると感じていたんだ。結局のところ、エベレストの標高は海抜面から測られているんだ。だから、エベレストを本当の意味で登りたかったら、海抜0mから登る必要があるんだ」

6年後の1990年2月5日。ティム・マッカートニー=スネイプは、インド・ベンガル湾のほとりに立っていた。

ガンガ・サーガル。聖なる河「ガンガ」(ガンジス)が流れ着く場所。「サーガル」というサンスクリット語が言い表すように、そこは「海」。海抜0m地点だった。エベレストに至るまでの長い旅の始まりであった。コルカタの大気汚染に苦しみ、灼熱のインドを走り、ガンジス川も泳いで渡って、雪景色へ突入していく。何度も嘔吐しながら高度順応を重ね、ついに登頂をめざすサミットプッシュの日を迎えた。

エベレストの雪解け水が、ガンジスの雄大な流れに運ばれ、インド洋に届く。そのインド洋を出発してからなんと1200kmもの道のりを人力のみで踏破した。実に3ヶ月に及ぶ長旅であった。

『エベレストへの長い道』
ティム・マッカートニー=スネイプがエベレストSEA TO SUMMITについて記した本を読み、多大な影響を受けた

1990年5月11日。遂にティム・マッカートニー=スネイプは、人類で初めて、海抜0mからのエベレスト登頂に成功した。斬新な発想と類稀なる実行力で、新しい冒険の可能性を世界に示してみせたのだった。

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プロフィール

吉田智輝(よしだ・さとき)

1990年生まれ、埼玉県鴻巣市出身。早稲田大学卒業後、シンガポールの外資系投資銀行に勤務。2018年9月から“海から七大陸最高峰に登る「SEA TO SEVEN SUMMITS」”の挑戦を始める。現在は長野県信濃町で登山ガイドなどを行ないながら生計を立て、残り2座(エベレスト、ヴィンソン・マシフ)の海からの登頂をめざす。

海から七大陸最高峰へ -冒険家・吉田智輝の挑戦-

海から七大陸最高峰の登頂をめざすSEA TO SEVEN SUMMITSに挑戦中の冒険家・吉田智輝さん。現在は七大陸最高峰のうち5座に海から登頂している。彼はなぜ、この登り方に憑りつかれたのか・・・。本人が語る冒険譚をお届けします。

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