序章 SEA TO SUMMITが俺の登り方|「海から七大陸最高峰に登頂」をめざした理由

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今、一人の日本人冒険家がある挑戦を行なっている。プロジェクト名は「SEA TO SEVEN SUMMITS(シー・トゥ・セブン・サミッツ)」。七大陸最高峰を海から頂上まで人力で登頂するという挑戦だ。2018年にオーストラリア大陸最高峰のコジオスコから始まったこのプロジェクトは、2023年に5つ目の頂であるデナリを登り、世界最高峰・エベレスト、南極大陸最高峰・ヴィンソン・マシフの2座を残すのみ。そんな挑戦を続ける冒険家・吉田智輝のSEA TO SEVEN SUMMITSへの旅路をたどる。

文・写真=吉田智輝

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運命で繋がった「俺の登り方」

シートゥーサミットという登り方に出合ったときのことは今でも覚えている。

私は大学院卒業直前に登ったキリマンジャロをきっかけに、海外での高所登山の魅力に目覚めた。シンガポールの投資銀行で働き始めても、東南アジアの山々やモンブラン、アコンカグアを登った。

海外高所登山の世界にどっぷりハマっていくと必ず触れる話題。それが、セブン・サミッツだった。

最初はまったく意識していなかったが、アコンカグアに登ったことで現実味を帯びた。七大陸最高峰踏破をめざす登山者たちにも山中で出会った。「こんなふうに世界中を訪れ、さまざまな人と出会い、自然の中に身を置くことがもっとできたら、それは本当にすばらしいことだ!」とセブン・サミッツへの憧れも次第に大きくなっていった。

大学院生時代にキリマンジャロに登頂
大学院生時代にキリマンジャロに登頂。どんどん高所登山の魅力にハマっていった

アコンカグア登頂後、次なる挑戦の地をヨーロッパ最高峰のエルブルースに決めていた。

そして、この山を登るとき、リフトと雪上車が標高5100m地点まで連れて行ってくれることを知った。山岳部のような経歴がない私は山岳ガイドの方々に技術を教えてもらいながら経験を積んできた。だからこそ、ヨーロッパ最高峰をより多くの人が登れるようにする工夫はおもしろいと思った。しかし同時に、自分のしたい登山とは少し違うと直観的に感じた。

そんな時、たまたま出会ったのが、シートゥーサミットという登り方だった。

「これだ!」

ティムの偉業を知ったときのセンセーションといったら。

こんなのやってみたい!電撃!衝撃!が走った。

「シートゥーサミット」という発想のシンプルさ。その大冒険に一瞬にして惹かれ、ガツンとくらってしまったのだった。

彼についてもっと知りたくなった私は、そのままウィキペディアへ。

そして、奇妙な事実を発見した。

『1990年5月11日、9時45分、ティムは世界初のエベレスト・シートゥーサミットを達成した』

やばい!これはマジでやばい!

1990年5月11日? それは俺の誕生日だよ!!

私が日本で生まれたまさにその日だった。世界最高峰の頂上でティムがあげた歓喜の雄叫びは、偏西風に乗って遥か東方の国ジパングまで届き、埼玉の片田舎で私があげた産声と奇跡的に共鳴したのだった。

「シートゥーサミットは俺の登り方だ!」

心の底からそう思った。山の世界にのめり込んでいった当時の私にとっては、神様の粋な計らいとしか思えなかった。なんとなく優等生気質でレールに乗った人生を送ってきた私に、初めて「自分だけのオリジナルなもの」が授けられた。そんな気がしたのだった。

憧れが大きくなっていたセブンサミッツを、自分の登り方「シートゥーサミット」で登ったらおもしろいんじゃないか!そんな着想を得るまでに時間はかからなかった。世界でまだ誰も達成したことがない大冒険。何か大きなことをやってみたい。そんな漠然とした想いもあった。

こうして、「海抜0mから人力のみで七大陸最高峰の頂を極める」SEA TO SEVEN SUMMITS プロジェクトが生まれた。

2019年3月ごろのことだったと記憶している。

シンガポールの外資系銀行に勤めていたころ
シンガポールの外資系銀行に勤めていたころ。この時思い描いていた未来とは大きく違う道を歩んでいる
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プロフィール

吉田智輝(よしだ・さとき)

1990年生まれ、埼玉県鴻巣市出身。早稲田大学卒業後、シンガポールの外資系投資銀行に勤務。2018年9月から“海から七大陸最高峰に登る「SEA TO SEVEN SUMMITS」”の挑戦を始める。現在は長野県信濃町で登山ガイドなどを行ないながら生計を立て、残り2座(エベレスト、ヴィンソン・マシフ)の海からの登頂をめざす。

海から七大陸最高峰へ -冒険家・吉田智輝の挑戦-

海から七大陸最高峰の登頂をめざすSEA TO SEVEN SUMMITSに挑戦中の冒険家・吉田智輝さん。現在は七大陸最高峰のうち5座に海から登頂している。彼はなぜ、この登り方に憑りつかれたのか・・・。本人が語る冒険譚をお届けします。

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