ルポ・飯豊連峰。テントを背負って夏の朳差岳へ

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日本海を見下ろす飯豊(いいで)連峰は、冬季には大量の雪が降り積もるとあって、夏まで雪渓が残る。温暖化のせいか残雪の量は減りつつあるというが、雪田を吹きわたる涼風を求めて、連峰の北端にそびえる朳差岳(えぶりさしだけ)をめざした。

文・写真=西村 健(山と溪谷オンライン)

行くぜ東北。一路、飯豊連峰へ

夏になると、東北が恋しくなる。高校2年生の夏に青春18きっぷを握りしめて早池峰山(はやちねさん)や秋田駒ヶ岳(あきたこまがたけ)、栗駒山(くりこまやま)といった北の名山を巡り歩いて以来、夏休みになると毎年のように東北に通った。東北の山々は総じて標高が低く、意外に夏は暑かったりするのだが、個性が際立っていて、とにかくおもしろい。山麓の土地柄もずいぶん違っていて、各地の夏祭りと山をセットで満喫するというのが、学生時代の夏の楽しみだった。

2023年夏、久しぶりに夏の東北を歩こうと、飯豊連峰をめざした。仕事を早めに終えた夕方、テント泊の装備を積み込んだ車で関越道をひた走る。国境の長いトンネルを越えて新潟県に入ると、途端に対向の上り車線の交通量が増えた。宵闇の向こうから走ってくる車列のヘッドライトが光の川のようだ。こちらが走る下り車線はガラ空きで真っ暗闇。そのギャップがすさまじい。そういえば、今日は有名な長岡の花火大会の日だった。車列は、家路を急ぐ見物客のものだったようだ。長岡を過ぎると下り方面の交通量も増え、休憩に立ち寄ったサービスエリアでは、ゴミ箱があるはずの場所にゴミの山ができていた。新潟市を過ぎ、深夜になって日本海東北道にさしかかるころ、高速道路はようやく静まりかえって闇の中へ延びていく。荒川胎内ICで高速を降りて、国道113号を経由し、新潟県関川村から山形県小国町へ。飯豊山荘そばの登山口駐車場に車を停めて運転席のシートを倒し、朝まで数時間眠った。

未明。眠い目をこすりながら駐車場でパッキングを済ませる。無数のメジロアブ(イヨシロオビアブ)がまとわりついてくる。かまれてもチクッと一瞬痛みがある程度だが、数が多いので本当に厄介だ。頭からすっぽりとバグネットをかぶり、朝食のおにぎりを隙間から差し込むようにして食う。面倒だなと思う一方で、夏の飯豊に来たことを実感した。

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この記事に登場する山

新潟県 / 飯豊山地

朳差岳 標高 1,636m

 飯豊連峰北端の雄峰で、春耕のころ、山腹に現れる「杁差しの爺や」と呼ばれた残雪形が、荒川沿いの村々で農事暦として親しまれてきた。しかし飯豊山信仰とは無縁で、戦後まで登山道もなく、もっぱら大石、金俣の熊狩り猟師に活躍の場を与えるに過ぎなかった。  昭和25年の国立公園指定を機に、大石川西俣の大熊尾根登山道や、杁差岳から北股岳に至る連峰北部の縦走路が伐開されて登山者に注目され始め、同39年の新潟国体登山で、大石川の東俣コースが開かれたり、山上に避難小屋が建設されて以来、登山者が激増した。  登山道は前記のほかに胎内川の足ノ松尾根から大石山へ登ったり、頼母木山、地神山を越えて山形県の飯豊温泉に下山する周回コースもある。前杁差岳から本峰、鉾立峰にかけての頂稜は美しい草原で、高山植物も多彩。  大石から8時間30分で山頂へ。

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