私でも登れる? 富士登山に必要な体力とは

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日本一の山だけあって、標高は高く、道のりは遠い富士山。登頂するのにどのくらいの体力が必要で、どんな運動が効果的なのだろうか。

監修=安藤真由子、文=大関直樹、イラスト=山口正児

目次

山を6時間以上歩ける?まずは自分の体力をチェックしよう

「私に登れるかな?」と思った人は、登山の経験がない、あるいは経験が浅く、自分の体力を把握できていないことが多い。まずは、富士登山に必要な筋力を鍛えるための基本的なトレーニングメニューをやってみよう。しんどいと感じた人、メニューをこなせなかった人は、富士登山に向けて日常生活に運動を取り入れたい。メニューを楽にこなせる人は、事前の「練習登山」をしてみるといい。ここでは登山のためのトレーニングを指導している健康運動指導士で登山ガイドの安藤真由子さんに、具体的なメニューを教えてもらった。

安藤真由子( あんどう・まゆこ)さん
教えてくれた人 安藤真由子さん
あんどう・まゆこ/三浦雄一郎氏が代表を務めるミウラ・ドルフィンズにて登山者のためのトレーニングプログラムを提供。体育学博士、健康運動指導士、登山ガイド。著書に『「登山体」をつくる秘密のメソッド』(地球丸)がある。

富士山に登るのに必要な体力は・・・

吉田ルートでいえば、五合目から山頂までの歩く距離は、約7㎞。平地だと2時間もあれば歩けてしまいますが、富士登山では約6時間半かかります。これは約1400mのアップダウンがあるからです。だから長時間の登り下りでもバテない持久力を身につけることが必要なのです。それに加えて、登山に必要な下半身や体幹の筋力もアップさせておきましょう。

坂道ウォーキングで心肺機能を高める。週1〜2回
【持久力アップ!】

登り下りのある坂道を歩くトレーニングは、登山に必要な心肺機能の強化に役立つ。まずは、週1回、1時間程度から始めてみよう。ポイントは少しだけ苦しいと感じる程度の速さで、信号以外は止まらずに歩き続けることだ。もしラクに感じるなら、荷物を入れたザックを背負ったり、足首にウエイトを巻いて負荷をかけるとよい。

富士山に登るトレーニング
慣れてきたらザックを背負って負荷をかけましょう

ちょっと疲れた日は、約4分間のExhike(エクスハイク)。週3~4回
【筋力、柔軟性アップ!】

今日は屋外での運動をするには少し疲れていると感じたら、YouTubeで検索して「Exhike(エクスハイク)」をやってみよう! これは、登山の専門家である鹿屋体育大学の山本正嘉教授と「KKB鹿児島放送」との共同研究で生まれたダンス風エクササイズだ。約4分間の運動で、筋力、柔軟性、バランス力など登山に必要な能力を身につけることができる。

富士山に登るトレーニング
Exhikeは、登山前のウォーミングアップにも最適です

スクワットで、登り下りで最も大切な太ももの筋肉を鍛える。週4~7回
【筋力アップ!】

登山で最も酷使する太ももの筋力を強化するトレーニング。ポイントは、ひざがつま先よりも前に出すぎないようにすること。ひざが突き出ると、太ももへの負荷がかからないからだ。また、動作はゆっくり行なうほうが、腱や関節を痛めにくく筋力アップにつながりやすい。反動をつけずに、下ろすときと上げるとき、それぞれ3秒ほどかけてみよう。

●まずは1日30回から

朝昼晩に10回ずつ、1日30回から始めてみよう。慣れてきたら回数を増やし1日に30回×3セットを目標に。

富士山に登るトレーニング
スクワットは、下山時のひざ痛を防止する効果もあります

呼吸がラクになる呼吸筋ストレッチを。週4~7回
【筋力アップ!】

富士山のように標高の高い山では、呼吸時に使われる肺を動かす筋肉をトレーニングすると、酸素をしっかり取り込むことができる。息は鼻から5秒くらいかけてゆっくりと吸って、また5秒かけて口からゆっくりと吐ききろう。コツは、胸や背中の筋肉を伸ばすのを意識すること。そうすると自然に深い呼吸が身につくはずだ。

●まずは1日30秒から

血行がよくなっているお風呂上がりがおすすめ。寝る前に行なうとリラックスするので安眠効果も期待できる。

富士山に登るトレーニング
このストレッチは、高山病の予防にもなりますよ!

体幹の筋肉を鍛えてバランス力アッププランク。週4~7回
【筋力アップ!】

体の中心にある体幹の筋肉を鍛えると、ブレずに歩けるので転・滑落の防止につながる。そのためには、図のように腹筋に力を入れて、頭からかかとまでまっすぐ伸ばした姿勢をキープする「プランク」をやってみよう。コツはお尻を上げたり下げたりせず、体が板のようにまっすぐになっている状態をイメージすることだ。

●まずは1日5秒から

最初は5秒から始めて、徐々に時間を増やしてみよう。50秒できたら富士登山に必要な筋力がついているはずだ。

富士山に登るトレーニング
体幹を強化すると長時間歩行でも疲れにくくなります

本番に備えた練習登山で自分の体力を確認。月1~2回

低山での練習登山は、本番前にぜひ行ないたい。初心者は、荷物を背負いながら未舗装の山道を歩くことで、登山自体に慣れることができる。このとき、歩く速さは一緒に登る仲間と歩きながら会話を楽しめるペースを守ること。そのペースで休憩を挟みながら本番同様に5時間以上歩くと、富士登山のシミュレーションができる。

富士山に登るトレーニング
5時間以上歩くことで富士登山のペースをつかみましょう

日常生活のなかで実践!お手軽生活トレーニング

富士山に登るトレーニング

働いていると平日にまとまったトレーニング時間をつくることは難しい。そういう場合は、日常生活をトレーニングに変えてみよう。たとえば、いつもの電車をひと駅手前で降りて歩いてみたり、普段は自転車での買い物を歩いてみてもいい。

そのときは、可能なら富士登山で使う登山靴を履いてザックを背負ってみることだ。体力アップに加えて靴の履き心地やザックの背負い心地を確認できる。

『富士山ブック2021』より抜粋・編集)

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この記事に登場する山

山梨県 静岡県 / 富士山とその周辺

富士山・剣ヶ峰 標高 3,776m

 日本の山岳中、群を抜いた高さを誇る富士山は、典型的なコニーデ式火山。いずれの方向から眺めても円錐形の均整のとれた姿は美しく、年間を通して人々の目を楽しませてくれる。東海道本線や新幹線の車窓から見ると、右手に宝永山、左手には荒々しい剣ガ峰大沢が望め、初めて見る人の心を奪う。  昔は白装束姿で富士宮の浅間(せんげん)神社から、3日も4日もかけて歩き通したという話を古老から聞いたことがある。現在では、富士宮と御殿場を富士山スカイラインが結び、途中からさらに標高2400m辺りまで支線が延びているので、労せずして雲上の人になれる手近な山となった。  日本で一番高い山、美しい山であれば、一生に一度は登ってみたい願望は誰にでもある。7月、8月の2カ月間が富士登山の時期に当たり、7月1日をお山開き、8月31日を山じまいと呼ぶ。  山小屋や石室が営業を始めると、日本各地や外国の人々も3776mの山頂を目指して集まってくる。特に学校が夏休みに入り、梅雨が明けたころから8月の旧盆までは、老若男女が連日押し寄せ、お山は満員となり、登山道は渋滞し、山小屋からは人があふれる。  富士宮口から登ろうとする場合は東海道新幹線の新富士駅、三島駅などからの登山バスで五合目まで行き、自分の足で山頂へ向けて歩きだすことになる。山梨県側には吉田口があり、東京方面からの登山者が多い。  目の前にそびえる富士山はすぐそこに見えるため、山の未経験者は始めからスピードを出しすぎ、7合目か8合目付近でたいていバテてしまう。登り一辺倒の富士山は始めから最後まで、ゆっくり過ぎるほどのペースで歩くことがコツである。新6合から宝永火口へ行く巻き道が御中道コースで、標高2300mから2500mを上下しながら富士山の中腹を1周することができたが、剣ガ峰大沢の崩壊で通行不能になっている。  山慣れたパーティならば新6合から左に入り、赤ペンキや踏み跡を拾いながら、いくつもの沢を渡り3時間もかければ大沢まで行くことができる。辺りは樹林帯で、シャクナゲの群落やクルマユリやシオガマなどの高山植物が咲く。  9合目右側の深い沢に残る万年雪は、山麓からも見ることができる。富士宮口を登りつめると正面に浅間神社奥ノ院がある。隣は郵便局。もうひとふんばりすると、最高地点の剣ヶ峰。山頂にはかつては毎日データを送り続けていた気象観測所跡が残っている。天候に恵まれたならば噴火口の周囲を歩く御鉢巡りが楽しめる。

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