富士登山、なにを着る? なにを持っていく? 登山ガイドが教えます

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富士登山に必要なウェアや道具について、登山ガイドが解説する。

文=吉澤英晃、写真=中村英史

そのほかに持っていくべきもの

富士山に登るウェア・ギア

ヘッドランプ

手に持つハンドライトは片手が塞がってしまうので適さない。頭に装着して両手が使えるモデルを選ぶこと。明るさの目安としては、100ルーメン程度あれば充分。

富士山に登るウェア・ギア

グローブ

防水性があるレイングローブを用意すると雨や霧でも手が寒くなりにくい。夜間の寒さが気になるようなら、レイングローブの下に着用する薄手のインナーグローブを用意しよう。

富士山に登るウェア・ギア

帽子

日中は熱中症対策でハットかキャップをかぶる。風で飛ばされないようにコード付きのモデルを選ぶか、帽子とウェアを連結するハットクリップを用意するといい。夜間は耳まで覆うニット帽をかぶったほうが温かい。

富士山に登るウェア・ギア

ヘルメット

近年、富士登山では落石による事故が発生している。特に注意したいのが、頂上での御来光を目的とした夜明け前の行動時。日中であれば発生した落石を目視して回避できる可能性があるが、あたりが暗いと落石がどこから飛んでくるかわからない。不測の事態に備えて夜間に行動する場合はヘルメットを装着したほうが安全だ。モデルによってフィット感が異なるので、登山用の規格に通ったモデルのなかから、頭の形に合うヘルメットを選ぼう。

富士山に登るウェア・ギア

インナーシーツ

ほかの人が使った布団で眠ることに抵抗がある人におすすめ。薄い生地が封筒状になっており、ここに入ってから布団の中で横になる。軽量で、収納は手のひらに収まるほどコンパクト。

富士山に登るウェア・ギア

トレッキングポール

下りでバランスを保つときに役立つ。2本を両手に持つのが基本だが、荷物に感じるようなら1本だけ用意してもいい。使用するときの適正な長さを知り、サイズを調整する方法を学んでおこう。

富士山に登るウェア・ギア

サングラス

標高が高くなると受ける紫外線の影響が大きくなるため、UVカット機能があるモデルを装着する。顔のカーブにフィットするスポーツタイプがおすすめ。砂ぼこりが目に入ることも防いでくれる。

富士山に登るウェア・ギア

ソックス

登山靴を購入したときにはいていた厚さの靴下を用意。雨などで濡れたときに備えて予備を1セット持つ。靴をレンタルするときは厚みの異なる靴下を用意して、フィット感に応じて使い分ける。

富士山に登るウェア・ギア

モバイルバッテリー

携帯電話といった電子機器を充電できる山小屋もあるが、小屋によって設備はまちまちなので、バッテリー切れに備えて充電済みのモバイルバッテリーを用意する。充電用のコードも忘れずに。

富士山に登るウェア・ギア

ドライバッグ

特に濡れると困る着替えや替えの靴下が収まる、5~10Lくらいの防水性のあるスタッフバッグがひとつあればOK。さらに大きいサイズを用意して、そこにすべての装備を入れるのもあり。

富士山に登るウェア・ギア

コロナ対策に持っていくもの

感染拡大を防ぐために、口元を覆うマスク(雨や霧による濡れに備えて1日あたり2枚以上用意)や手ぬぐい、ゴミや吐物を持ち帰る密閉袋、携帯用の手指消毒剤の携行が推奨されている。

富士登山基本装備一覧

(◎=必ず持つ ◯=あると便利)

アームカバー ベースレイヤーに半袖シャツを選んだときに使う。腕の日焼けを防ぐことができる
替えのベースレイヤー 汗以外に雨や霧で濡れてしまったときに着替える。コットンが含まれているものはNG
レインカバー 雨が降ってきたときバックパックにかぶせる。バックパックと荷物が濡れるのを防ぐ
グローブ 防寒用に防水性のあるレイングローブが1セットあるといい
帽子 熱中症予防に。ハットは首筋の日焼けも防ぐことができる。防寒用にニット帽も用意
サングラス 主に紫外線の影響が目を守るために着用。UVカット機能が付いているものを選ぶ
マスク 砂ぼこりから口元を守る。ネックウォーマーなどでもOK。今年はコロナ対策のためにも携行
タオル 行動中にかいた汗を拭く。乾きやすいものなら薄手の手ぬぐいなどもあり
トレッキングポール あると登り下りがラクになる。長さを調節できるモデルが使いやすい
スパッツ 足元に装着して靴の中に雨水や砂が侵入しないようにする。パンツの裾が汚れない利点もある
水筒 軽いソフトボトルが人気。お湯をもらえる山小屋に泊まる場合は保温ボトルもあり
水(1L) 行動中に補給する水分。山小屋で買い足すことができるので、用意する目安は1L
行動食 手軽に食べることができるパンやおにぎりなど。甘いものや塩気があるものをお好みで
非常食 予期せぬケガなどで予定どおり下山できない場合を想定して、行動食を1日分多く持つ
地図 スマートフォンの地図アプリも役立つが、バッテリーを節約するために紙地図も用意
腕時計 登山用でなくても問題ないが、防水性があると安心できる
汗拭きシート 市販のシートを必要な枚数だけ密閉袋に入れて持つといい。山小屋でさっぱりできる
ウエットティッシュ ほとんどの山小屋に洗面所がない。あっても貴重な水を節約するために必要な枚数を持つ
ビニール袋 濡れた服やレインカバーを入れる、下山時に汚れたスパッツを入れるなど、なにかと便利
日焼け止め 標高が高い場所は紫外線の影響が強いので男性も必須。日焼けすると疲労も蓄積する
スキンケアセット 日焼けや乾燥といった肌へのダメージをケアする
サコッシュ 山小屋の中を移動するとき貴重品などを入れて持ち運べる
S字フック 貴重品を入れたサコッシュやヘッドライトなど、よく使うものを吊るしておける
カイロ 山頂で御来光を待つとき、体を温めることができる
耳栓・アイマスク 山小屋での睡眠・仮眠に活躍。音や明かりを気にせずに休むことができる
保険証 ケガをすることもありうるので必ず用意。コピーでもいい
現金・小銭 トイレの使用には100円が必要。クレジットカードに対応していない山小屋もある
ファーストエイドキット 絆創膏や常備薬など、使える範囲で必要最低限のアイテムを準備
モバイルバッテリー コンセントが使える山小屋は少ない。主に携帯電話(スマートフォン)の充電用
携帯電話
(スマートフォン)
緊急時に救助を要請するなど、登山に欠かせない連絡手段。地図アプリも活用できる

『富士山ブック2021』より転載)

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この記事に登場する山

山梨県 静岡県 / 富士山とその周辺

富士山・剣ヶ峰 標高 3,776m

 日本の山岳中、群を抜いた高さを誇る富士山は、典型的なコニーデ式火山。いずれの方向から眺めても円錐形の均整のとれた姿は美しく、年間を通して人々の目を楽しませてくれる。東海道本線や新幹線の車窓から見ると、右手に宝永山、左手には荒々しい剣ガ峰大沢が望め、初めて見る人の心を奪う。  昔は白装束姿で富士宮の浅間(せんげん)神社から、3日も4日もかけて歩き通したという話を古老から聞いたことがある。現在では、富士宮と御殿場を富士山スカイラインが結び、途中からさらに標高2400m辺りまで支線が延びているので、労せずして雲上の人になれる手近な山となった。  日本で一番高い山、美しい山であれば、一生に一度は登ってみたい願望は誰にでもある。7月、8月の2カ月間が富士登山の時期に当たり、7月1日をお山開き、8月31日を山じまいと呼ぶ。  山小屋や石室が営業を始めると、日本各地や外国の人々も3776mの山頂を目指して集まってくる。特に学校が夏休みに入り、梅雨が明けたころから8月の旧盆までは、老若男女が連日押し寄せ、お山は満員となり、登山道は渋滞し、山小屋からは人があふれる。  富士宮口から登ろうとする場合は東海道新幹線の新富士駅、三島駅などからの登山バスで五合目まで行き、自分の足で山頂へ向けて歩きだすことになる。山梨県側には吉田口があり、東京方面からの登山者が多い。  目の前にそびえる富士山はすぐそこに見えるため、山の未経験者は始めからスピードを出しすぎ、7合目か8合目付近でたいていバテてしまう。登り一辺倒の富士山は始めから最後まで、ゆっくり過ぎるほどのペースで歩くことがコツである。新6合から宝永火口へ行く巻き道が御中道コースで、標高2300mから2500mを上下しながら富士山の中腹を1周することができたが、剣ガ峰大沢の崩壊で通行不能になっている。  山慣れたパーティならば新6合から左に入り、赤ペンキや踏み跡を拾いながら、いくつもの沢を渡り3時間もかければ大沢まで行くことができる。辺りは樹林帯で、シャクナゲの群落やクルマユリやシオガマなどの高山植物が咲く。  9合目右側の深い沢に残る万年雪は、山麓からも見ることができる。富士宮口を登りつめると正面に浅間神社奥ノ院がある。隣は郵便局。もうひとふんばりすると、最高地点の剣ヶ峰。山頂にはかつては毎日データを送り続けていた気象観測所跡が残っている。天候に恵まれたならば噴火口の周囲を歩く御鉢巡りが楽しめる。

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