富士登山、なにを着る? なにを持っていく? 登山ガイドが教えます

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富士登山に必要なウェアや道具について、登山ガイドが解説する。

文=吉澤英晃、写真=中村英史

富士登山の成否はウェアと道具にかかっている!?

日本一高い山・富士山は、夏でも寒いくらいの気温というのは有名な話。でも、富士山ならいつでもどこでも寒いわけじゃなく、汗をかくほど暑いシーンだって珍しくない。登山道はよく整備されているけれど、意外に足回りのトラブルが多いのも事実。そんな富士山に登るためのウェアと道具選びについて、登山ガイドの野中径隆さんがアドバイスする。
野中径隆(のなか・みちたか)さん
教えてくれた人 野中径隆さん
のなか・みちたか/日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅡ)。毎年、富士山と八ヶ岳を中心にツアーを主催。著書に『Q&Aでわかる 山の快適歩行術』(山と溪谷社)。

富士山にはどんな服装で登ればいい?

日中は汗ばむ暑さ、頂上付近は真冬並みの寒さ。大きい寒暖差に備えて、役割が異なるウェアを用意します

出発時、日差しがあるとTシャツ1枚で行動できる場合もある。このときに気をつけたいのが、汗で濡れたウェアが乾いてくれないと体温が奪われ続け、低体温症に陥る危険があるということ。汗を吸って拡散蒸発を促す吸汗速乾性のベースレイヤーを着る。

一方で、2020年7~8月の富士山頂の平均気温は、最低2.2℃、最高14.9℃。これは東京と大阪の12月の平均気温に匹敵する。寒さから身を守るために、保温性のあるミッドレイヤーと保温着を用意する。雨を防ぐアウターレイヤーも必須となる。

ウェアのレイヤリングを教えてください

標高約1400〜2300m 五合目付近。登り始めは薄着でOK

富士山に登るウェア・ギア

天気にもよるが、晴れていて風がなければ上着はベースレイヤー1枚で充分なことが多い。パンツも1枚でちょうどいいことが大半だ。スタート時からミッドレイヤーを着る、ロングパンツの下にタイツをはくなど、重ね着しすぎるとかえって汗をかきすぎてしまう。

標高約3000m 山小屋付近。寒さを感じたらミッドレイヤーなどを重ねる

富士山に登るウェア・ギア

標高が上がると気温が下がるので、寒さを感じるようならベースレイヤーの上に保温性のあるミッドレイヤーや、風を防いでくれるアウターレイヤーを重ねる。薄手のウインドブレーカーを着てもいい。日差しがあれば出発時と同じ服装で行動できることもある。

標高約3500m 山頂付近(御来光時)。保温着以外をすべて着て出発

富士山に登るウェア・ギア

ミッドレイヤーの上にアウターレイヤーも重ねて、保温着以外のウェアをすべて着込んで行動する。耳まで覆うニット帽をかぶりグローブも装着しよう。風がある場合はネックウォーマーがあると首元が温かい。頂上で御来光を待つときは、アウターの下に保温着を着る。

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この記事に登場する山

山梨県 静岡県 / 富士山とその周辺

富士山・剣ヶ峰 標高 3,776m

 日本の山岳中、群を抜いた高さを誇る富士山は、典型的なコニーデ式火山。いずれの方向から眺めても円錐形の均整のとれた姿は美しく、年間を通して人々の目を楽しませてくれる。東海道本線や新幹線の車窓から見ると、右手に宝永山、左手には荒々しい剣ガ峰大沢が望め、初めて見る人の心を奪う。  昔は白装束姿で富士宮の浅間(せんげん)神社から、3日も4日もかけて歩き通したという話を古老から聞いたことがある。現在では、富士宮と御殿場を富士山スカイラインが結び、途中からさらに標高2400m辺りまで支線が延びているので、労せずして雲上の人になれる手近な山となった。  日本で一番高い山、美しい山であれば、一生に一度は登ってみたい願望は誰にでもある。7月、8月の2カ月間が富士登山の時期に当たり、7月1日をお山開き、8月31日を山じまいと呼ぶ。  山小屋や石室が営業を始めると、日本各地や外国の人々も3776mの山頂を目指して集まってくる。特に学校が夏休みに入り、梅雨が明けたころから8月の旧盆までは、老若男女が連日押し寄せ、お山は満員となり、登山道は渋滞し、山小屋からは人があふれる。  富士宮口から登ろうとする場合は東海道新幹線の新富士駅、三島駅などからの登山バスで五合目まで行き、自分の足で山頂へ向けて歩きだすことになる。山梨県側には吉田口があり、東京方面からの登山者が多い。  目の前にそびえる富士山はすぐそこに見えるため、山の未経験者は始めからスピードを出しすぎ、7合目か8合目付近でたいていバテてしまう。登り一辺倒の富士山は始めから最後まで、ゆっくり過ぎるほどのペースで歩くことがコツである。新6合から宝永火口へ行く巻き道が御中道コースで、標高2300mから2500mを上下しながら富士山の中腹を1周することができたが、剣ガ峰大沢の崩壊で通行不能になっている。  山慣れたパーティならば新6合から左に入り、赤ペンキや踏み跡を拾いながら、いくつもの沢を渡り3時間もかければ大沢まで行くことができる。辺りは樹林帯で、シャクナゲの群落やクルマユリやシオガマなどの高山植物が咲く。  9合目右側の深い沢に残る万年雪は、山麓からも見ることができる。富士宮口を登りつめると正面に浅間神社奥ノ院がある。隣は郵便局。もうひとふんばりすると、最高地点の剣ヶ峰。山頂にはかつては毎日データを送り続けていた気象観測所跡が残っている。天候に恵まれたならば噴火口の周囲を歩く御鉢巡りが楽しめる。

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